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第144話
自室からの続き部屋の扉を開けると、室内の中央にある長椅子にブラッドが横になっていた。傍らのワゴンには飲みかけの茶器があった。
茶を飲みながらレオンを待っていたようが寝てしまったのだろう。純白の夜着の胸が浅く上下している。
寝ちゃったか……。
残念なようなほっとしたような複雑な面持ちでレオンはブラッドを抱き上げた。
寝台に下ろすと、ブラッドが小さく声を上げたが眼は開かなかった。頬にかかっていた髪をそっと払うとくすぐったかったのか、首を竦めたがレオンの指から逃げようとはしなかった。
安心しきっているのが分かり、その無防備さに愛しさが込み上げた。
安心しきった寝顔に、ふと悪戯心が起こり、レオンは横たわらせたブラッドの唇を啄んだ。ブラッドの唇はふっくらとして柔らかで、極上の砂糖菓子のように甘く魅惑的だった。
離れては啄み、目覚めないことを良い事に唇を食んだり歯列を舌でなぞったりした。
唇を甘噛みながら形の良い丸い耳をつまむと、小さく声が漏れ、幼児がいやいやするように首を竦めて頭を緩く振った。
(起こしちゃったか?)
それでもレオンは角度を変えて吐息ごと唇を吸い上げた。そうすると、ブラッドの睫毛が震えた。
「…んっ…ふ……」
レオンが唇を離すと、薄っすらとブラッドの瞼が開かれた。瞬きを何度か繰り返すと徐々に焦点が合っていく。
「レ…オン…? あれ? ぼく…寝ちゃってた…?」
お茶を飲んでレオンを待っていた筈なんだけど……。
「目が醒めたか?」
「うん…。起きて待ってるつもりだったんだけど…ごめんね」
ブラッドを抱き起こし、レオンは抱え込むように自分の膝の上に座らせた。赤髪に指を絡ませてブラッドの額に自分の額をくっつけた。
「明日の朝、寝坊する権利をもぎ取ってきた」
「え?」
「帰ったばかりで山のような書類を処理させられたんだ。明日の朝は、呼ぶまで誰も部屋には入らせない」
「う、うん」
「だから、どんなに声を上げても大丈夫だ」
レオンの言葉を反芻し、意味を理解した途端、ブラッドの顔が真っ赤になった。
柑橘の香りのする紅茶を飲みながら、ブラッドはレオンの訪いを待っていた。
何故かアンネリーが張り切ってブラッドの湯浴みを手伝い、頭の天辺から爪先までピカピカに磨き上げられた。遠慮も断る隙も無く、色とりどりの花びらの浮いた湯船に浸からされ、手足に花の香りの香油を擦り込まれた。
最後に白の薄い生地を幾重にも重ねた肌触りの良い夜着を着せられ、長椅子に座らされた。
鼻腔を擽る香り立った茶を淹れると、アンネリーは跪いて茶器をブラッドに差し出した。
ブラッドは瞼を瞬いてアンネリーから茶器を受け取った。
自分より年上の人に跪かれるなど、そうそうあるものでない。内心慌ててしまった。
礼を言って受け取ると、アンネリーが微笑んで立ち上がった。
「お疲れになりましたでしょう、お方様?喉を潤しながら旦那様をお待ちになって下さい」
「は、はい」
「お仕事が立て込んでいるようで、少々お時間がかかっているようなのです」
「いえ、お仕事は大事です。気にしないで下さい」
「まぁ、お優しすぎです、お方様は。今宵は大事な初夜ではないですか。それに、お仕事に追われてるとはいえ、久方振りに旦那様がお戻りになられて張り切っているゲオルグ様にも困ったものです…。私はこれで下がらせていただきますが、ゲオルグ様に旦那様を解放するよう注意しておきますね」
「は、はい…?」
初夜?
初夜って何??
声にならない悲鳴を上げてブラッドは紅茶を飲み干した。熱かったけれど、渇いた喉にはありがたかった。
ドキドキしながらレオンを待っていた。
待っていたつもりだった。
それが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
ゆらゆらと躰が水に浮いて漂っていようで心許ない。魔力溜まりで揺蕩っていた状態に似ていた。
ブラッドを包み込んでいる魔力は暖かく心地良い。その魔力には覚えがある。
レオンの魔力に包まれてるみたいだ…。
護られていると確信出来る、力強いのに暖かく優しい波動だ。安心して眠っていられる。
それなのに、何だか落ち着かない。
腰の辺りがむずむずして脚が動いてしまう。体内に少しずつ熱が生まれ、じんわりと躰を巡り始めた。
籠もった熱を発したくなり、無意識に吐息が漏れてしまった。
「ふっ……う…ん……」
夢と現の間で、ブラッドは何とか目醒めようと瞼を瞬いた。
もがきながら深い水底から意識が浮上していく。意識が眠りに引き込まれそうになるのに逆らうと、ようやく重かった瞼が開いた。
眼の前にレオンの端正な顔があった。
「レ…オン? あれ? ぼく…寝ちゃってた……?」
「目が醒めたか?」
どこか悪戯を見つかった子供のようなバツの悪そうな表情でレオンが言った。
「うん…。起きて待ってるつもりだったんだけど……ごめんね」
謝ると、ブラッドは抱き起こされてレオンの腕の中に抱え込まれた。
「明日の朝、寝坊する権利をもぎ取ってきた」
「帰ったばかりで山のような書類を処理させられたんだ。明日の朝は、呼ぶまで誰も部屋には入らせない」
「う、うん」
「だから、どんなに声を上げても大丈夫だ」
言葉を理解した途端、羞恥に真っ赤になったブラッドの可愛さに、レオンは理性の枷を外した。
部屋の灯りは落とされており、窓から月明かりが差し込んでいた。
夜着が捲れてあらわになったブラッドの白い脚が、仄かな月光に照らされて艶めかしく輝いていた。
その誘惑に逆らうなど出来る筈がない。
レオンはブラッドの滑らかな脚を撫でながら唇を深く重ねた。漏れる吐息ごと吸い上げ、角度を変えては喰む。
歯列をなぞり、僅かに開いたところから舌を侵入させ絡ませる。
懸命に応えるブラッドはレオンの首に両腕を回し、密着させた躰を震わせた。ブラッドの頭を支えて唇づけを深くすると、躰から力が抜けた。
レオンに身を預け、無意識に下半身を擦りつけている。
滑らかな脚の感触を存分に楽しみ、レオンはブラッドの夜着を剥いだ。
赤い小さな果実を摘むと、ブラッドの背中がびくりと跳ねた。そのまま揉みほぐすように指を動かすと、ブラッドの吐息の温度が上がった。
「やっ…ん…っ…」
ブラッドが指から逃れようと身を捩ると、それを咎めるようにレオンは強く捻った。
「いた…い、よ…」
「痛いだけか…?」
レオンはブラッドの耳朶に熱い吐息を吹きかけ、歯を立てた。
「ひっ……、あ、んっ…」
掠れた、可愛い悲鳴にレオンの熱が形となるのに時間はかからなかった。
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