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第145話

 熱い唇に  悪戯な指に  力強い腕に  夢中で応えているうちに躰から力が抜けてしまい、何も考えられなくなった。  頭も躰も鍋で煮込まれた野菜のようにトロトロでぐずぐずになってしまい、レオンの首に回していた腕はいつの間にか外れていた。熱の籠もった躰から漏れる吐息が熱い。  寝台に横たわると敷布が冷たく気持ちがいい。けれど、そうすると身の内に侵入している楔の熱さが際立つ。  その熱を逃がす為に息を吐く。  新しい酸素を求めて息を吸う。 (あ、あれ? ぼく、息吸ったよね? 何か苦しい、ような…?)  胸を大きく上下させる。  なのに、空気が肺に入ってきていないようで焦る。更に息を吸う。  苦しい。  どうしよう。  視野が狭くなり、滲んだ涙で視界が霞む。  はくはくと口を開けるが苦しい。  ふと、唐突に新鮮な空気が入ってきた。  瞼を瞬くと目尻から涙が溢れて視界が開いた。  すると、眼の前に心配気に眉尻を下げた端正な顔があった。レオンが息を吹き込んでくれたらしい。 「ブラッド…大丈夫か?」 「レ…オン……。うん、ありがとう…」    唇が重なった。  お互いの唇を食み合う。  拙い口吻で積極的に応えてくれる様が可愛らしく愛おしい。  散々弄って赤くなった胸の果実を抓むと、鼻から小さな息を漏らしながらもブラッドは逃げようとはしなかった。  柔柔と、それでいて熱く自分の楔を包み込まれ、レオンは暴走してしまいそうになるのを必死に律した。  せっかく全幅の信頼を寄せて身を任せてくれているのだ。欲望のまま無垢な躰を暴いて傷つけ怯えさせたくはない。  漸く手に入れた、大事な大事な手中の玉だ。  自分の……自分だけの手で磨き上げ、綻ばせ、花を咲かせてやりたい。 「レオン……」  力の入らない手が逞しい腕にしがみついた。汗で滑って落ちそうになったブラッドの手を受け止め、指を絡ませる。  指と指が擦れる僅かな刺激にもブラッドが震えた。  腰を少し進めるとブラッドが甘やかな鳴き声を上げた。 「やっ…あ…」  奥を軽く突くと背中が跳ねた。  「ああっ…んん…」  ブラッドの声は、至高の楽器が奏でる音楽より耳に心地好い。白い肌は絹より滑らかで触り心地が最高だ。   「ブラッド…愛してる」  ブラッドが潤んだ瞳でレオンを見上げた。 「…レオン…、ぼくも……」  掠れた声で応えてくれる。 「ブラッド…ブラッド…俺を嫌わないでくれ…」 「…レオン…?」  竜人族といえどブラッドは人界で育っている。更に色恋とは無縁の神殿育ちだ。  竜人族特有の愛しい者への執着は高位になる程に激しい。魔力の強さと執着は同等だ。  お互いを縛り合う甘い鎖。愛し合う者同士であれば、だ。  だが、時にその執着は猛毒となる。  その一方的な想いを厭い、逃れようとする者もいるのも確かだ。  だが、漸く腕の中に取り戻したブラッドへの想いが止まらない。抑えが効かないのだ。  その重い愛を疎まれてしまえば、自分は正気でいられないのが分かる。竜人族の最高位の血を引く、という事は魔力も執着もそれだけ強い証でもある。  腕の中の温もりが無くなるのが怖い。  いつか疎まれてしまうかもしれないと考える事すら怖い。  鎖で繋いで閉じ込めてしまいたい。  それを実行したとしても、多分ブラッドは受け入れ、赦してくれるだろう。  魔力溜まりで眠っている間に躰は成長したが、精神は眠る前のままの筈だ。けれど、ブラッドの懐は深く情に厚い。  どんな無茶をしても受け止めてくれる。  だから……。  レオンは枷を外し、烈情のままブラッドを貪った。  突然増した激しさと熱に翻弄されるまま喘ぎ、ブラッドは激情を受け止め、レオンの首に腕を回し、腰に脚を絡ませた。  唇が深く重なり、舌の根が痺れる程レオンに吸われた。喘ぎ声すら飲み込まれたが、ブラッドはレオンの髪に指を絡ませ更に頭を寄せる。  好き  どうしよう  どう言葉にしたらいいのか分からない…  熱に翻弄され、熱に浮かされ、激情を受け止める。  無意識に白竜としての癒しの本能のままブラッドはレオンを受け止め、柔らかく包みこんだ。 「レオン、大好きだよ」 「…ブラッド?」 「嫌いになるなんて…無いよ。このまま…溶けて一つになったらいいのにね。あ…、でも、そうしたらレオンに触れられなくなっちゃうな…」  ずっと触れていたいもん…。  そう呟き、ブラッドはレオンの筋肉質の胸の中央で赤く淡く光っている部分を指でなぞった。  ぼくの鱗……。  唇を寄せ、ぺろりと舐めた。  ちょっと塩っぱい。  鍛え抜かれた、汗ばんだ逞しい躰だ。薄い、貧弱な自分の躰とは全然違う。  鍛えたら、ぼくも少しはレオンに近づけるかな。  また子犬のようにちろちろと舐め続け、何となく歯を立てた。  途端に体内の楔が熱を増して膨れ上がった。 「ひゃっ…あん!」  レオンが唸り声を上げてブラッドを抱き起こした。 「ああっ…!」  自重で楔が深く刺さった。  ごりっと先端が敏感な部分を抉った。 「はっ…あっ…あ…」  いつの間にか自分とレオンの腹を白濁の飛沫で濡れていた。 「な、なに…? ぼく…どうし…わかん、ない……。変、だよ…。奥、熱いよ……」  無意識の媚態。  上下する喉の動きに視線が外せない。レオンは惹きつけられるようにブラッドの喉に舌を這わせた。 「煽ったのはお前だからな。覚悟しろよ」  熱い夜はこれからだった。                    

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