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第146話
喉が渇いて目が覚めた。
躰が怠くて節々が痛い。喉も痛いような気がする。風邪でも引いたのかな……。
優しい眠りの海を漂っていた意識がゆっくりと浮上し、目を開けると周囲は薄暗かった。けれど、夜明け前から仕事をしていたブラッドの肌感覚では、既に陽は昇っている。天蓋の幕の隙間から細い光が差し込んでいた。
起き上がろうとして躰が動かない事に気がついた。何かに躰を縛められているようだ。
胸の奥がヒヤリとした。
縄でぐるぐるに縛られて小屋に転がされた事を思い出したからだ。
ぼくは何か失敗しただろうか……。
頭を振って不安を振り払おうとした。
違う。
縛めではない。
囲い込むようにブラッドを抱き締める腕は力強く、温かい。
(レオン……)
顔を上げると、端整で鋭角な顔立ちがあった。艷やかな黒髪。
(前にも、こんな事があったな…。あ、やっぱり、睫毛が長いなぁ)
筋が通った高い鼻梁。男らしく尖った顎と喉仏。厚い胸板と割れた腹筋。
(あう…羨ましいなぁ…。ぼくも鍛えたら腹筋、割れるかな?)
レオンの喉仏に触れてみて、もう片方で自分の喉を触ってみた。ささやかな喉仏しかない。
胸板から割れた腹筋をなぞる。鎧のように硬い筋肉だ。
自分の腹を見下ろすと、ペタンコで貧弱だ。
どうやったら、ここまで鍛え上げられるのだろうか。自分の躰は薄っぺらく腹筋と呼べる筋肉らしいものは無い。
溜め息が出た。
ふと、自分の胸から腹にかけて点々と赤い痕がある事に気づいた。
虫…?
首を傾げて考えた…途端に思い出した。
強く吸われたり、甘く噛まれたり……。その度に自分は恥ずかしくなるくらい甘い声を上げたような……。
昨夜、どうやってレオンに抱かれたか怒濤のように思い出した。
思わず羞恥で真赤になった顔をブラッドは両手で覆って躰を縮めた。
躰の奥には、まだレオンの熱が残っていた。耳に残る愛の囁きと、肌に印された愛された紅い痕。
一晩中レオンに翻弄され続けた、幸せな時間。
けれど……。
レオンの愛撫に、熱についていくのに夢中で縋りつくのが精一杯だった。
(そりゃあ、レオンはぼくよりずっと大人だもん。手慣れているの当たり前だよね? でも、何か悔しいというか……)
何も出来なくて…。ただレオンに縋りついていただけのような気がする。
顔を覆って声にならない悲鳴を上げた。
ひとしきり思い出しては羞恥で身悶えたしたブラッドは、ふと顔を上げて悪戯っぽく微笑んだ。
(ぼくだけ痕があるのはずるい。レオンにもつけてやる)
「よしっ」と小さく拳を握り、ブラッドはレオンの胸に吸いつき、小さな音を立てて唇を離した。
「あ、あれ?」
薄桃色の痕は、すぐに消えてしまった。
「もう一回」
今度は先程より強く吸ってみた。
ところが、僅かに赤くなるものの瞬く間に消えてしまう。高級なめし革のように鍛え上げられた躰には、ブラッドが吸いついた程度では痕すらつけられたないようだ。
「うぅ~悔しい」
ブラッドはムキになってレオンの胸や腹に吸いついた。
「つかないーっ、何で?」
嘆くブラッドの頭上で、くくっと、笑い声がした。
見上げると、レオンが口を片手で抑えて笑いを堪えていた。
「レレレオン?!」
「ぶはっ、ははっ」
堪え切れなかったらしい。
「…い、意地悪っ。黙って見てたんだねっ?!」
抗議にレオンの胸を叩いたが、厚い胸筋では子猫の戯れ程度にしか感じなかった。
ブラッドが目覚める少し前からレオンは起きていた。
健気にレオンの全てをその細い躰で受け入れてくれた。求めるのを止められなかった。
最初は躊躇いつつ浅い処を。
けれど……。
思いの外、ブラッドの中は気持ちが良かった。良過ぎた。
熱く、柔々と、それでいて時にキツキツに楔を締めつけてくる。加減などしていられない。理性など一瞬で吹き飛んだ。
夢中で貪った。
精を注ぎ込んだ。
羞恥に躰中を真っ赤にして身悶える細い躰を抑え込んでブラッドの楔を口に含み、掠れた声で悲鳴を上げて出した精を飲み干した。
その後、ブラッドは布を重ねて巻きつけてレオンに背を向けて拗ねてしまった。
それを宥め、甘く囁きながら蓑虫状態のブラッドから一枚ずつ布を剥いで愛撫を繰り返して啼かせた。恥じらい、顔を隠しながら。
それもまた楽しく、自分だけが知るブラッドの新たな表情でもあった。
それこそ、今、羞恥で真っ赤になってレオンの胸をポカポカ叩いている可愛い顔を知るのは自分だけだ。
赤髪の頂点に唇を落とす。
「笑ったりして悪かった」
チュッ。
少し上向いた鼻先に口づけをした。
「俺の躰は、ちょっとやそっとじゃ傷つかないからさ」
「え…?」
「擦り傷とか切り傷とか、そんな簡単にはつかないんだよ」
「…竜人族って、強いんだ」
「他の者がどうかはよく知らんが…、俺は鍛えているからな」
それで済むんだ……。
ブラッドはレオンの胸に噛みついた。
天蓋の幕を開けると部屋は明るかった。
夜着を羽織ったレオンは、ブラッドを毛布を巻きつけて抱き上げた。
「レオン? ぼく、歩くよ?」
「…歩けるかな?」
そっと降ろされると、立つ前に脚から力が抜けた。床に膝をつく寸前、レオンに掬い上げられた。
「な?」
「うう……。何処に行くの?」
「風呂だ」
広い風呂に連れて行かれ、そこでも甘く啼かされた。
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