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第5話
光の塊が入って来たと思った。
黄金を溶かし、極限まで細くした絹糸のような髪を肩まで伸ばし、知的な光を帯びた榛色の瞳の長身の二十歳前後の青年だった。
白地に金の装飾が施されている衣装は、青年が高位の身分であることの証だ。
青年が室内を見渡し、レオンの陰にいるブラッドに目を止めた。
「ブラッド?」
レオンは咄嗟にブラッドの前髪を下ろし、目元を隠した。何故、そんなことをしたのか分からなかったが、青年にブラッドの愛嬌のある目を見せたくなかった。
「オイレンブルク侯爵さま?」
ブラッドは青年と顔見知りらしかった。
「フェリックスと呼べと言っていただろう」
そんな、恐れ多いことは出来ない、とブラッドも何度も言った。
フェリックス・オイレンブルクは若くしてオイレンブルク侯爵家を継いだ、貴族の子弟からなる騎竜騎士団の団長でもあった。
そして、奴隷商人からブラッドを救い出し、城へ連れてきた本人でもある。
「怪我をしたと聞いた。大丈夫なのか」
フェリックスはブラッドの擦り傷で赤い頬に、そっと手を当てた。
「痛むのか」
「そんなには……」
「竜が暴れたと聞いたが」
ブラッドは、口を開けたままフェリックスを見上げた。どう言えばいいか分からなかった。
確かに、騒ぎの原因は自分だ。軽々しく竜舎に入ったのが良くなかったのだ。
「ぼくの…ぼくのせいでグリューンが…」
「竜舎で大声を上げた奴がいたんだ」
レオンが間に入った。
「卵を抱かせようとしていたところだったから、竜が怒って興奮した」
「卵を取られると思ったのだな?」
「そうだと思う」
「そうか。ならば、卵を抱く期間は刺激させられんな」
フェリックスは頷いてブラッドに向き直った。
「危険な仕事をさせられているのではないのか?」
「い、いいえっ。そんなことないです」
短く息を吐いて、フェリックスはブラッドの頭を撫でた。
レオンはその手を払い除けたくなったが、拳を握って堪えた。
「私の屋敷に来いと何度も言っているのだがな」
「と、とんでもないですっ」
侯爵家の屋敷の使用人は皆、出自と身元のはっきりした者でなくてはならない。捨て子のブラッドが出入りして良い場所ではない。
それなのに、フェリックスはブラッドの顔を見る度に自分の屋敷に来るよう言うのだ。もっとも、貴族の子弟であれば、問答無用で最下層の者など引きずってでも連れて行っても良いのだが、フェリックスは決して強引にブラッドを連れて行こうとはしない。
孤児の自分の意志を尊重してくれる。それは、大変申し訳なく思うのだが……。
「無理に来いとは言わぬ。だが、私はブラッドが心配なのだよ」
頭を撫でていた手が、いつの間にか頬に移動していた。
二人の間に漂う親密な空気に、レオンは居たたまれなくなった。
どうやって引き離そうか思案し始めた時、またも戸が開いて人が入ってきた。
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