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第9話
「14、5だと思った……」
呟いたとたんにブラッドのふくれた頬を思い出して、レオンの口許に笑みが浮かんだ。
ようやく竜たちを別の竜舎に移し終え、グリューンの寝床を整え卵を抱かせた頃、陽はとっぷりと暮れていた。
調教師らの宿舎で簡単な食事をし、レオンはグリューンの前で藁の上に毛布を敷いて寛いだ。
ミュラーが宿舎で寝泊まりするよう申し出てくれたが、卵の孵化まで面倒をみるのが仕事だからと断った。
卵を抱いて丸くなっていたグリューンが頭を上げてレオンを見た。
「グリューン……、お前には無理を頼んですまないな……」
手を伸ばして鼻を撫でた。
「これで最後か……」
蒼穹の瞳が曇る。
「お婆の遠見が当たっているなら、この城にいる筈なんだ」
秀麗な容貌に疲れが垣間見えた。
大事な、大事な宝物が腕をすり抜けて行方が分からなくなって何年が過ぎたろう。すぐにでも探しに行きたかったが、その時の自分は幼すぎた。
必要な知識、体力と体術を身につけて、反対する家族を振り切って故郷を飛び出したのは10年前。
闇雲に探して探し出せるものではない。
里の、唯一遠見が出来る占術師のお婆によれば、
「大事な宝は竜とともにある」
という、実に曖昧な結果のみ。
それでも、竜を頼りに探すという目標が出来ただけでもありがたかった。
竜の巣を片っ端から探すこと5年。その後は、竜のいる城を卵売りとして渡り歩いた。
そして、竜がいる最後の城がここだった。
壊れた竜舎から竜を移したからといって、日常の仕事から解放はされない。
ブラッドが残っていた自分に課せられた仕事をこなし、遅い夕飯を食べ終えた頃には月が高く昇っていた。食器を片付け、汗ばんだ躰を井戸の側で拭う。
井戸の水は冷えていて、首筋を拭うと気持ちがいい。
脇腹に貼られた包帯の下の薬草をそっとなぞった。
レオンの大きな手を思い出した。
自分を抱き上げた力強い腕。
奴隷商人から助け出してくれたフェリックスとは違う、何故だか分からない懐かしさを覚えた。フェリックスも竜騎士というだけあって、細身に見えるが鍛えられており、衣服の下は逞しい。
同じ手なのに、何で、レオンの手に触られると安心するのかな……。
記憶にない、父親の腕を想像してなのか。
短い嘆息をついて、ブラッドは服を身につけた。
もう寝ないと。明日も夜明け前に起きなければならない。
井戸の縁から立ち上がったブラッドは、竜舎の陰から出てきたパオルに気がついた。さらに、彼の後ろに3人…同じ竜の調教師らがいた。
月明かりに照らされたパオルの表情は険しかった。
ブラッドは、知らず、後ずさっていた。
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