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第10話
「ふざけやがってっ!」
壊れて無人となった竜舎に連れ込まれ、ブラッドは床に叩きつけられた。
背中を強打し、一瞬息が詰まる。
パオルの顔は、ブラッドに対する怒りで、月明かりでも分かるくらい真っ赤になって歪んでいた。後ろにいる二人のブラッドに向ける視線は冷やかだ。
「ぼくは…何も…」
「うるさいっ。黙れっ」
パオルの拳がブラッドの額を打った。
衝撃とともに鼻の奥に鉄錆びの臭いが広まり、生温いものが滴った。
「てめぇみたいな何も知らねぇガキが、余計なことしやがって」
胸ぐらを捕まれ、更に頬を殴られた。
ブラッドの小柄な躰が床を転げて、壁に激突した。
「お前のせいで、俺は竜の世話から外されたんだっ」
パオルはブラッドの胸を踏みつけた。
骨が軋み、息がつけない。
「お前は来たときから、俺らは気に食わなかったんだ」
後ろの二人も頷いた。
「ミュラーさんに媚び売りやがって」
「侯爵さまに取り入りやがって」
調教師の頭領であるミュラーに頼りにされ、竜に無条件に愛される。更に、若くして領地を継ぎ、竜騎士としても誉れの高いフェリックスに保護されてる。
しかし、それらはブラッドが意識して行ったことではない。幸運もあるだろうが、本人が自覚していない人を惹き付ける魅力なのだろう。
パオルたちがブラッドに対して苛つくのは、自分たちより下位である筈の、貧相な少年を無視できない感情が何であるか理解出来ないからだ。突き詰めて考えたくもない。
ならば、目の前から消してしまえばいい……。
極論であるが、パオルたちにとっては、至極当然の答えなのだ。
ふと、踏んでいるブラッドの横に、錆ついた釜が落ちてるのに気づいた。二人に目配せすると、一人が釜を拾い、もう一人はブラッドの手をひと纏めにして押さえ込んだ。
釜を受け取ったパオルは、胸を踏みつけていた足を上げた代わりに、刃をブラッドの喉元に突きつけた。
刃の冷たさに、息を飲む。
助けて、とも、やめて、とも声が出せない。
「ここで殺してもいいんだが…後始末が面倒だな……」
釜の刃がブラッドの服に引っ掛かった。
パオルは、それをゆっくり引いた。甲高い悲鳴に似た音を立てて、ブラッドの服が裂かれていく。薄い胸に巻いた包帯代わりの白い布が露になった。
それに気づいたパオルの手が止まった。
自分がつけた傷を手当てしたものだと気づいたからだ。その布も釜で切り裂く。
腕を押さえていた男が、ごくり、と喉を鳴らした。月光に照らされ、ブラッドの淡く輝いた肌が艶かしい。
パオルは、今度はブラッドの下履きを一気に切り裂いた。
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