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①電話待ち。side:新
時刻は午後22時を回った頃。
"これ、俺の番号。よかったら電話してくるといい。眠る前でもいいし、ヒマな時でもいいから。"
そう言って渡したメモ帳の切れ端に書いた携帯番号。
少し強引すぎただろうか。
まさか彼が俺に手紙をくれたカイリだとは思いもしなかったから――。
俺よりふたつ年上の親戚、大和 が勤めるラジオのパーソナリティーを、風邪を引いて声が出なくなった代わりに嫌々引き受けたアルバイト。初めは乗り気ではなかったけれど、カイリという子からファンレターが届いた。
こんな俺でも人の役に立てることが嬉しくて、気が付けばずっとカイリのことを考えていた。
そんな時、実習で出会った中山くんがまさかカイリだったなんて思いがけずに嬉しくて。
ついつい浮かれて手渡してしまった。
カイリがくれたファンレターの青空がスマホの待ち受けだ。
机の上にあるスマホを何度見直したところで同じ画面には変わりない。
それでも、今か今かとまるで初めて恋を知った少年のような気分で中山くんからの電話を待ち続ける。
電話がかかってこない可能性もあるのにな。
思わず苦笑してしまう俺は、もうすっかり中山くんに嵌りつつある。
……困ったな。
手紙をもらって、少し話しただけなのに――……。
俺はこんなに惚れっぽかっただろうか。
なんて思っていると、ブルブルとスマホが震え出した。
「はい、井上です」
『…………』
勢いよく電話に出たものの、相手は何も話さない。
だからきっと、中山くんだと思った。
『もしかして中山くん、かな?』
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