19 / 53

第2話・僕の救世主。 ⑨

 しっとりとした、あの声が携帯から聞こえてきた。  だけど僕は勢いで押してしまっただけ――。  井上先生と何を話すか、まったく内容を考えていなかった。  だから当然、僕は画面を見ながら口をパクパクさせて、無言のままで――......。 『もしもし?』  そんな僕の姿も見えない井上先生は、少し困っている口調になっている。  ああ、どうしよう。  イタズラ電話かと思われてしまうかも。  そうしたら、僕の電話番号を着信拒否されて......。  一生アラタさんの声が聴けなくなってしまう!!  焦る僕は、だけどよけいに何も言えなくなってしまう。 『もしかして中山くん、かな?』  その言葉に――。  その声に――。  びっくりした。  だって、僕。  何も言ってない。  それなのに、井上先生は僕だってわかってくれた。  しかも、そう言った井上先生の声が、アラタさんよりもずっとずっと優しくて、あたたかくて......。 「はい」  気がつけば、僕はスマートフォンを左耳にくっつけて、返事をしていたんだ。

ともだちにシェアしよう!