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第2話・僕の救世主。 ⑨
『よかった、電話してきてくれたんだ。押し付けがましかったかなって思ってたんだ』
心から安心しているような声が聞こえて、また僕はびっくりする。
だって、僕の方が着信拒否されなくてよかったって思うところなんだよ?
それなのに、井上先生が『よかった』とか言うなんて、とってもびっくりだ。
井上先生の優しい言葉と態度に、気がつけば僕の目からは涙があふれていた。
声をかけてくれた。
話しかけてくれた。
電話を切らずにいてくれた。
たったそれだけのこと――。
だけど僕にとってはとても重要なことなんだ。
『眠れない?』
「はい......」
井上先生の言葉にうなずく僕。
当然、電話だからうなずいても相手には見えない。
そうは思うんだけど、なんか井上先生がものすごく近くにいてくれているようで、ついついうなずいてしまうんだ。
『そっか......。ご飯は食べたのかな?』
「はい」
ああ、もうっ!
僕ってなんでこうも言葉の引き出しが少ないんだろう。さっきから、『はい』ばっかりだ。
井上先生はうなずくばかりで聞き飽きたって思うかもしれない。
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