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第3話・発覚! コイゴコロ。 ⑨
帰ってもらおうと一生懸命胸を押す。
「中山くん......それ、ほんとう?」
なのに、先生はいったいどうしたんだろう。
声が震えている?
僕は、そこではじめて先生を見上げた。
先生はどこか切羽詰ったような、そんな顔をしていた。
「せんせ......」
「これ、なんだと思う?」
そう言って、僕の手を胸元から外すと、ズボンのポケットから取り出したのは一枚の紙。
「それっ!!」
真っ青な空に雲の写真がプリントしてあるその紙は......。
その模様には見覚えがあった。
だって、それは僕が、『アラタさん』に出したファンレターだったから――。
だけど、どうして井上先生がそれを持っているんだろう?
マジマジと見上げれば、先生は苦笑をもらしながら口をひらく。
「親友がラジオパーソナリティーをやっていてね、風邪で声が出なくなったらしくてね。代わりを無理矢理頼まれて、アルバイトのような感覚でパーソナリティーをしていたんだ」
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