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第2話

 絶対、もう一人の〈俺〉が絡んでいる。〈俺〉は、困るオレを見て楽しんでるのか?  ポケットを膨らませて窮屈そうなザクロが見えないように手で押さえ、オレは個室に入った。  いや、こんな物を持って席に戻ったら、みんなが変に思うだろ。だからと言って、食べ物を捨てるのは抵抗がある。トイレで物を食べるのも同じぐらい抵抗があるけど、致し方ない。  ポケットから取り出したザクロは、また自然と皮が弾けた。便座の蓋に座り、赤い粒を一つ二つ三つと、次々に食べる。  このトイレは、個室が二つ。店内の喧騒はあるものの、隣の個室に音や声が聞こえたりするかなあ…。  いやいや、別にここで何かするって訳じゃないからな! 物を食べてる音が聞こえないか心配なだけだ!  実を丸ごと食べ終わったと同時に、誰かが入ってくる靴音がした。まさか、〈俺〉…?  個室からこっそり出る。いたのは、アカの他人だった。  ふうっと大きく息を吐き――別に、がっかりしてる訳じゃないからな――宴席に戻った。  その夜はアルコールが入っているのに、なかなか寝つけなかった。体が熱い。ベッドの中で、熱がこもる体を持て余している。  あのザクロを三度も食べたせいだろうか。いつもはあいつにイカされて、気を失うように眠っていた。記憶も曖昧で…。  それが、この三日間に限って出て来ない。  体の熱を何とかしたい――俺はパジャマのズボンをずり下ろした。  十回も擦らないうちに半勃ちになった。布団が邪魔で、跳ねのける。 (いい格好だな)  そんなふうに言われた気がして、思い切り腰を振りながら擦り続けた。  そのうち、すっかり硬くなって、先端からは透明なしずくが出てきた。 (相変わらず、いやらしい体だな)  脳内で再生するあいつの言葉に、ビクンとサオが大きく揺れる。  膝を立ててベッドに座った。右の中指にしずくを塗りたくり、ローションの代わりにして尻の間にもぐりこませた。 「あっ…、あん…」  周囲をほぐしてやり、慣れたところで指を挿入させた。 「はあっ、あっ…、いいっ」  自分の体だから、どこをつつけば気持ちいいのか、よくわかる。指がもっと中に入りやすいよう、左手で袋を持ち上げた。中をゆっくりかき回し、そっと出し入れをする。時々、指をグイッと曲げてみる。 「あはぁっ…! 気持ちいいっ…!」  オナニーのときに、恥ずかしがらずに声を出してみれば、余計に気持ちよく感じるんだ。羞恥心というタガが外れたら、中からあふれるのは淫靡な自分の正直な姿。さらけ出してやったら、どんなエッチなことも大胆にできる。 「ああん、もっと…奥まで突いて…犯してっ」  相手は自分の指だから、乱暴なことはしない。だから“犯して”なんて言える。いやらしいオレの指は、温かい粘膜の壁を這い回る。 「ああ…いい、凄くいい…!」  その言葉は誰に向かって言ってるのか。振り払おうとしても、必ずあいつが出てくる。眼鏡の奥の目は残忍で、オレと同じ顔だとは思えない。執拗な言葉攻めと、どこで覚えたのか天にも昇るようなテクニックで――  もう我慢できない!  オレはパジャマの上も脱いで素っ裸になると、ベッドにうつぶせになり、ペニスをシーツに擦りつけた。  勃起したペニスには、この圧迫感がいい。手で触れない分、外部からの刺激みたいな感覚がある。後ろに手を回し、アヌスへの愛撫の続きをした。いやらしく上下する腰は、指の出し入れも助ける。 「ふぁっ…、あ…」  枕をつかんでいる場合じゃなく、そろそろティッシュの用意をしないと――そう考えるものの、オレの指と腰は止まってくれない。  オレ…今、凄くいやらしい格好してる…。下は丸出しで、自分でアヌスに指を突っこんで、床オナニー。  こんな姿、あいつに見られたら……。 「いい格好だな」  そう、そんなふうに蔑んで言われ――  ……って。  ええええ~?!  ベッドの縁に、スーツ姿の〈俺〉が腰かけている。意地悪な笑みを浮かべ、アンダーリムの眼鏡のブリッジを、指先で押し上げる。  オレは慌てて跳ね起きた。

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