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第二話 吸血鬼狩り
「参ったな~全然光源が足りないや…なんで……あっ!痛っ…また木の根っこ!もう、嫌になるなあ…こんなに樹が密集してちゃ、折角の満月も意味ないじゃない…って京君達とはぐれて結構な時間が経ってるし、一度森を出て合流した方がいいのかなあ…?」
疲れたし……歩くの飽きたし。なんでこんな厄介な場所にいるんだよ!
ぶつぶつと文句を言いながら、降夜はそれでも足を止めなかった。
この森に、自分の宿敵ともいえる吸血鬼が住んでいるのだ。
倒すべき敵が居るというのに、なにも出来ずにただ帰るなんてまっぴら御免だ。
殺す!滅ぼす……殺す……殺し尽してやる……!
降夜の瞳に浮かぶのは、ギラギラとした殺意だった。
人間の敵を神の名の下に断罪し、神に背いた悪を打ち滅ぼす。
世界の中心に存在する、神聖な教会の聖職者が浮かべるには、生々しすぎる……純粋な憎しみだった。
「っと…あれ?なんでここだけ…」
森の中央を漸く過ぎた辺りだろうか……木々に遮られ、月の光も射さない暗闇が唐突に途切れ、目の前に淡く白い光がちらちらと瞬いていた。
「……これは、白い薔薇?なんでこんな森の中に…」
降夜は思わず目を瞠った。
深い森の奥深くに、美しい白い薔薇が甘い香りを辺りに漂わせながら咲き誇っていた。
野薔薇の繁みが、まるで生垣のようにその周りをぐるりと取り囲み、降夜が偶然周り込まなければきっと気づかなかっただろう……
意図的に、隠しているみたいだ。降夜はそう思って不思議な気持ちになった。
誰が、一体何の為に……?
「おい…そこで何をしている?こんな夜更けに出歩くなんて、非常識な奴だな!」
薔薇を覗き込んでいると、いきなり背後から声を掛けられて思わず飛び上がり、反射的に腰に差していた銀の短剣を抜きながら振り返った。
そして、声の主と正面から向き合って息を飲みこんだ。
金色……目に飛び込んできた色彩があまりにも鮮やかで、目を奪われた。
まるで陽の光で作られているみたいな、黄金色の髪だった。
この場所にだけ、月の光が満ちているせいか……それ自体が淡く光っているみたいだった。
それに、何よりも降夜の目を惹きつけて離さないのは……その瞳だった。
強い光を宿した金色の瞳だった。
肉食獣が持つ、強者の瞳だ。
意思の強そうな顔の……多分、自分とたいして歳が変わらないように見えるその青年は、その金の瞳を驚きに瞠って、降夜を食い入るように見つめていた。
時間が止まってしまったような静寂を先に破ったのは、金色を纏った青年の方だった。
降夜が持つ銀の短剣と、そこに刻まれた聖なる紋章を見て……ちらりと、苦笑の様なものを浮かべた。
「なるほど。今度教会からきたのはお前か…?俺は穂村清涼。お前たちが殺したがっているこの森の吸血鬼だ」
そう言って、まるで降夜に見せつけるみたいに……鋭く尖った牙を見せて好戦的に笑った。
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