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第四話 吸血鬼の返答
「……ったく…!言うに事欠いて…変態吸血鬼だあ…?まったく……人の顔に容器ごと液体をぶちまけた上に、随分と口汚ねえ聖職者だな…!綺麗な顔している癖に、随分と乱暴な奴だ。おい…!お前達、アイツに…降夜に言っておけ。一週間待ってやるから、返事は今夜会ったあの場所に、いつでもいいから来いってな!あと…いいか?アイツは俺のものだ。指一本触れてみろ…殺すぞ?分かったな!」
降夜に投げつけられたワイングラスから零れた、真紅の水滴を指先で拭いながら、目の前で事の成り行きを呆然とした顔で見ていた男二人にそう言い聞かせると、席を立った。
「……言われても仕方ない様な事を言ったあんたも悪いと俺は思うけどな?なんでいきなりあんなことを言ったんだ?どう考えても、降夜を怒らせたいとしか思えなかったぞ?一体何が目的なんだ?」
そう言って、じっと俺を見つめる男の鳶色の瞳は、鋭い光を放っていた。
悪くないな、と思った。俺の力を知ってなお……怯えもせずに真っすぐに見据える瞳は嫌いじゃない。
「目的…って言ってもなあ…そのまんまだけどよ?アイツが欲しい。あの性格だったら、怒らせた方が意地になって、こっちを追いかけてくるだろう?だからだよ」
だから、正直に答えてやった。降夜が目的だと教えてやった。
その答えに、二人は同時に目を瞠った。そうだろうな、とは薄々感づいていたんだが……やっぱりか。
「ちゃんと答えてやったし、忠告はしたからな?絶対に降夜に手を出すなよ。お前の事は別に嫌いじゃねえし、俺だって、むやみに人を殺したりなんてしたくねえんだよ。アイツはお前らの事を、なんか信用しているっぽいけどよ…隙あらば手を出そうなんて考えは捨てるんだな!とにかく伝言を頼んだぞ?教会には俺の方から降夜を貰うと言っておくからよ。まあ、抵抗するだけ無駄だっていうのは…お前らにも分かってるだろう?」
ニヤリと笑うと、男達は身体を強張らせた。
教会が誰の味方であるのか……さっき知ったばかりなのだ。
自分達に出来る事など、何一つないと知らされた弱い人間にも俺は容赦することはしない。
あれは……降夜は俺のものなのだ。
髪の一筋から……血の一滴まで、俺だけのものだ。
声を失った、まるで木偶人形のような男二人をその場に置き去りにして、俺は外に出ると空の丸い月を見上げた。
いい夜だ……!
こんなに美しい夜は、もう二度と訪れないだろう……
そう思って、隠し切れない喜びを胸に森へと帰るのだった。
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