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第四話 欲しい物は……
「こっちに来い…降夜」
お前が欲しい物をやると言って、清涼は降夜の手を掴むと歩き出した。
一体何をくれるつもりなのかな……?
降夜はワクワクしながら彼の後を付いて歩き、初めて入った彼の家の中を、きょろきょろと見回した。
今まで彼の家に何度遊びに来ても……決して家の中に入れてくれなかったのだ。
降夜は、かなり強大な力を持つ吸血鬼だったが……人に招かれないと家の中に入ることは出来ない。
いつまで経っても清涼が家に入れてくれないことに腹を立てて……黙って上がりこもうとしたことなど何度もあるが、残念なことにドアのノブを回すことすら出来ないで、がっかりする結果になるのだった。
だから……いくら洗濯物を持っていたとはいえ、清涼が家に降夜を入れてくれたことに吃驚した。
まあ……昨晩はわざわざ使い魔を使って村人を助ける手助けまでしたしね!
きっと、単純な彼の事だ。
自分と村人の為に色々としてくれた降夜に、感謝の気持ちを抱いたのだろう。
本当に、簡単だなあ……!ふふふと……思わず込み上げた笑いが零れて……あ、やばいと慌てたが、いつもみたいに、なに笑っていやがる!などと清涼が怒鳴ってくることはなかった。
あれ……?どうしたんだろう。
漸く清涼の様子がおかしいと気が付いた時には……全てが……遅すぎた。
「う…!っん…や…!嫌…だって…ばぁ…!」
グチグチと……いやらしい音を立てて、清涼の指が降夜の身体の奥を暴いていく。
耳を塞ぎたくなるような、甘ったるい声が自分の喉から零れていることに、恥ずかしさで顔を赤くして……降夜は泣きたくなった。
「嘘つけ…!ここ…こんなに濡らしてよ…もっと欲しいって言ってんぞ?」
喉の奥で笑い声を上げて、清涼が降夜の耳元で囁いた。
なんで……?どうして……?
身体の奥から這い出そうとする快楽に流されまいと、必死になりながら降夜は困惑を隠せない。
どうして……なの?
快楽と、羞恥から……涙を零して降夜は清涼を見詰めた。
問いかける、降夜の眼差しに気づいた清涼が……笑った。
「……っ!…」
ぞくり、とした。思わず身体が竦むような……恐ろしい肉食獣の目だった。
喉の奥で……声が凍りつくほどの恐怖に降夜は身体を強張らせた。
怖い……とっても、怖い……よ……!
涙を零しながら……それでも視線を外せない降夜の目を見つめながら……清涼はゆっくりと降夜の顔に自分の顔を近づけて唇を合わせた。
彼の口付けは、呼吸どころか内臓ごと持っていかれそうな位に……激しかった。
腰を高く上げさせられた恰好のまま……後孔に舌先を捻じ込まれるという目の眩むような羞恥に震えて、何度もやめてと懇願する降夜の声など、全く聞こえていないように清涼の愛撫は、際限なく降夜を怯えさせ泣かせ続けた。
気づけば、連れ込まれた清涼の寝室は暗闇に閉ざされ、どれだけ時間が経ったのか……降夜には分からなかった。
身体から抵抗する力が抜けた頃……漸く清涼は降夜の身体から自身の指を抜き去り、ほっとしたのもつかの間……降夜の足首を掴んで引き寄せた。
「え…?あ…っ!ちょ…ま…っ」
ずぶりと熱くて固くて……信じられない位に太い物が降夜の内部に押し込められて、再び降夜は涙をぽろぽろと零した。
「ん…っだよ…!あんだけ時間かけて解したんだから、痛くねえだろうが…」
降夜の内部に押し入りながら、清涼がさらに奥へと腰を進めて……涙を零す降夜にそう言った。
「……っ…痛いよ…とっても、痛い…よ…馬鹿…!」
泣きながら降夜は清涼を詰った。
なにがなんだか分からない内に服を剥ぎ取られて、ベッドの上に押し倒されて……そして……あんな……!あんな恰好をさせられて、身体中あちこち滅茶苦茶に触られて……!痛いに決まっているじゃないか……!死ぬほど痛いよ……心が。
苦しくて……辛くて涙がさらに溢れた。
「……嘘吐くな…!お前…昨日の夜は…あんなに気持ち良さそうだったじゃねえか…なんで、俺ん時はそんななんだよ!ああ…くそ…!ムカつくなあ…!」
いつまでもぐずぐずと泣いている降夜に、清涼は眉間に皺を寄せて……そう怒鳴りつけると、もう、加減なんてしてやらねえと低く囁いた。
「え…?あ、ちょっと…!待って…!」
昨日……?夜……?それって……
降夜が、ようやく清涼の機嫌の悪さの原因に思い当たった時にはもう、清涼は降夜の細い腰を掴んで……先ほど宣言した通りに、手加減などせずにガツガツと……降夜の身体を蹂躙し始めたのだった。
「……ほら、こっち向け…降夜」
散々貪られた身体は、まるで鉛のようだった。
何度止めてと言っても清涼は、止めてはくれなかったし……おまけに身体の中に出すなと言っても聞いてはくれず、腹の中は清涼が出したもので……気分が悪くなるくらいに一杯だった。
少し動けばトロリと、後孔から白い液体が零れて……降夜は顔を顰めた。
「……なに…?まだ、動くの辛いんだけど…」
それでも、清涼が呼ぶので仕方なく顔をそちらに向けた降夜の腕を掴んで、清涼は自分の膝の上に降夜の身体を抱き上げた。
「ちょ…!騒君…汚れるよ?まあ…全部君が出したものだけどさあ…」
顔を顰めて、大人しく清涼の膝に座らされた降夜がそう言えば、清涼は、うるせえと一言だけ言うと、降夜の顔をそっと両手で挟んだ。
「ほら…好きなだけ飲んでいいぞ」
真剣な顔で囁かれた……その言葉に今度こそ降夜は声を失った。
一体……何を言っているの?
吃驚した顔の降夜を見て、くくくと……楽し気に清涼が笑った。
「ちょっと…!何笑ってるのさ。おかしなことを言っているのは君だろ?なに考えてるの?なんで…そんなこと言うの…」
憮然とした表情で、清涼を見詰める降夜の頬を……清涼の掌が何度も、撫でた。それは……とても優しい感触だった。戸惑って、清涼の顔をじっと見つめる降夜に清涼は溜息を吐いて、降夜の後頭部にそっと手を添えると引き寄せた。
彼の腕で、彼の首筋に顔を埋められると、彼の……清涼の匂いがした。
少し苦い……彼がいつも吸っている煙草の香りと、汗の……少し酸っぱいような匂い。
降夜の知る、誰よりも魅力的な彼自身の匂いだった。
「……本当に、いいの…?」
目の前の皮膚の下を流れる血に……喉の渇きを刺激されながら降夜は、それでも清涼に問いかけた。
だって、清涼は……自分を憎んでいるはずなのだ。
彼を騙し……彼の柔らかい心を深く抉って傷つけた降夜を、一生許さないと言ったのは……彼なのだから。
その、彼が……悪魔を滅ぼす中央教会のエクソシストである彼が……吸血鬼である自分に、血を差し出すことは……罪だと知っていたから。
「いいって言ってんだろうが。それに…これは、村の為だ。お前が村人をむやみに襲ったりしないように俺が犠牲になるんだよ。だから…お前はこの先血が飲みたければ、俺から飲め。俺だけにしろ。あんなことも…もう、他の奴にするんじゃねえ!いいか?これは契約だ。俺がお前の欲望を叶えてやるから、お前は俺だけにしろ。分かったら大人しく飲んでおけ」
清涼は降夜の問いかけにそう答えると、いいから早く飲めとぐいぐいと頭を押して来たので、そんなに強く押されると飲めないよと、苦く笑うのだった。
そうか……村の為か。なるほどと降夜は思った。清涼らしいとも。
なんだ……自分の勘違いだったか。
てっきり、昨晩の男との情事の現場を見た清涼が、嫉妬したから……だからこんな風に降夜を抱いたのか……と、ついさっきまで思っていたのだ。
なんだか、それにかなりがっかりしている自分に気が付いたが、降夜はそれを隠して清涼の首筋に大人しく牙を突き立て……甘い蕩けるような熱い血潮に舌鼓を打った。
ほんの少し……喉の渇きが癒えるだけの量を飲んで、降夜は顔を上げた。
「……ありがとう。騒君…とっても美味しかったよ?」
微笑んで、彼の唇にそっと触れるだけのキスをした。
そして、少し眠ってもいいかい?なんだかとっても疲れちゃったよと言った降夜に、清涼が構わないと言ってくれたので、大人しく彼の横に寝そべって瞳を閉じた。
横になった降夜の身体に、そっと布団をかけた清涼は、ベッドサイドに置かれたテーブルから煙草を取り出して、火をつけたようだった。
ふわりと漂うその煙の香りは、さっき降夜が飲んだ血に混じったものと同じだった。
甘くて、苦い……清涼の香りだった。
夜中過ぎに目を覚ました降夜の隣では、清涼がすやすやと寝息を立てて幸せそうな寝顔で眠っていた。
起こさないようにそっとベッドから起き出すと、床に投げ出されていた自分の服を拾って身に着けた降夜に気づいた清涼がのそりと起き出して
「……おい…何処へ行くんだ?」
不機嫌な顔で降夜に問いかけてきた。
「何処…って…帰るんだよ。朝になれば…人目があるからね。今のうちにこっそり帰るよ」
降夜はそう言って、寝室のドアへ向かった。
早く……帰らないと。
このまま、朝までいたりしたら……離れるのがもっと辛くなると思ったのだ。
「そうかよ…約束…覚えているな?血が欲しくなったり、またしたくなったら…俺の処へ来い。絶対に村人に手を出すんじゃねえぞ?分かったな!」
清涼は、降夜にそう怒鳴ってきたが……それに笑い声で答えると、降夜は、彼の家を出て月が照らす夜の道を森へ……自分の住処へと振り向きもせずに帰っていくのだった。
だから……降夜が振り向きもせずに森へと帰る背中を、窓越しに清涼がじっと……黙って見つめていたことには気づくことができなかった。
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