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第5話
海堂の病室は五階にある六人用の大部屋だった。
しかし、今はそんなに入院者がいないのか、入り口のプレートに書かれているのは、海堂を含めた三人の名前だけだった。
大きく深呼吸をすると、桃城は思い切って病室の扉をノックした。
そして、ノックするのと同時に扉を開ける。
「はい…」
ノックの音に返事をしたのは、桃城の母親と同い年位の中年の女性。そして、その女性の座っている椅子の隣のベッドに、海堂はいた。
リクライニングを六十度程上げて、海堂はそのベッドに寝たまま寄りかかっていた。
「あら、桃城さんじゃない?」
「え?えっと…」
その女性に突然声をかけられ、桃城は戸惑った。
すると、女性は椅子から立ち上がり、桃城の前に立つと、深深と頭を下げる。
「薫の母です。いつも薫さんからお話を伺っているのよ?大変お世話になっているみたいで…」
「いやいやそんなっ…」
突然海堂の母親に頭を下げられ、桃城自身もそれにどう対応したら良いのか分からなかった。
「いや、お世話になってるのはいつも俺の方っス…」
あたふたとしている桃城を見てくすりと笑うと、穂摘は海堂の方へと向き直り、そっと海堂の肩に手を乗せる。
「ほら薫さん、桃城さんよ?覚えていないかしら。」
すると、俯いたままの海堂がピクリと反応する。
「もも…しろ……?」
その瞬間、桃城の顔は青ざめ、穂摘の表情が明るくなる。
「そうよ!覚えているのねっ?」
「……」
しかし、海堂は黙ったまま首を横に振る。
「……分からないです…」
「そう…」
穂摘はその海堂の言葉に大変残念そうな顔をする。
「…すみません…」
「いいのよ。薫さんのせいじゃないの。」
その言葉が桃城の胸深くに突き刺さる。
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