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第9話
「その、キス…とか、見つめたり…とか」
「うーん、太一くんが可愛いからねぇ。そうしたくなるんだよ。」
「だから、可愛くなんかないですって」
まるで情事の後のピロートークを思わせる。
俺は、この人とどうなりたくて付いてきたのだろう。この人は、俺とどうなりたくて誘ったのだろう。
「さて、パンに目玉焼き乗せたのとコンソメスープって言う、簡単な物なんだけど、食べられそう?」
「あ、すみません、頂きます。」
隆明さんから漂っていた良い香りはコンソメスープだったんだ。体力を使ってお腹がすいている今、その香りだけでも食欲を唆られる。
「そうだ、仕事は?月曜だからあるよね?」
「元々休もうと有給を取ってたので…今日は休みです。」
「そうなんだ、何か用事とか?」
「いえ、そうじゃなくて……結婚式の後二次会まで行って次の日仕事、って耐えられる程、もう若くはないので………」
昨日の事を思い出して気分が沈んでしまったのを感じたのか、隆明さんはそっか、と優しく頭を撫でてくれた。心に溜まっていた重苦しい物が、吸い取られていくような気がした。
「じゃあ、身体が楽になったら出掛けようか。」
「へ?どこへ、ですか?」
「イイとこ。」
イイとこ……って。どこだろう。いや、それより隆明さんは一体何のつもりなんだろう。俺はてっきり、朝食が済んだら帰れと言われるものだと思っていた。この人の考えている事はよくわからない。
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