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第16話

 家に着いて飲み直しつつ、彼、篠崎太一くんの話を聞いていた。  たった一度の彼とのキスで7年間も片思いだなんて、健気で可愛いじゃないか。ただ、彼を想ってこんなになっているのは少し妬ける。  俺もキスをすれば、君にこんなにも想って貰えるのだろうか?  「太一くん、服脱げる?そのままだと苦しいでしょ。」  「うぅ…ん、」  結婚式の後、そのままバーに向かったのだろう。彼は白地に紺のドット柄が入ったネクタイと、シルバーグレーのベストで着飾ったブラックスーツ姿のままだった。  ゆっくりとネクタイを解き、ウィングカラーシャツのボタンも外していくと、心做しか表情が軽くなった気がする。  どんな思いでこれを着て、どんな思いでバーへ向かったのかと考えると、何故だかこちらまで胸が痛くなる。  「ねぇ、俺とキスしてよ。」  頬を撫でる手に擦り寄ってくる姿はまるで捨てられた子猫のよう。  愛情を強請るようなその目は、心の底では誰を思い浮かべているのだろう。話を聞いてあげるだけのつもりが、火をつけたのは他の誰でもない、未だ潤んだ目で煽り続けている彼だ。  「いいね、その誘い方。その表情もいい。けど、ちゃんと意識ある?起きて記憶ないとかヤだよ俺。」

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