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第27話

 「篠崎さん〜営業部の矢吹さんがお呼びですよ〜」  「あ、ありがとう、すぐ行くよ。」  定時間際、何となく帰る気が起きない俺は、少し残業するかと決めたところで、開発部であるここに、営業部のマサが来たと声が掛かった。マサが結婚する前も、こうして覗きに来ることはよくあった。  「マサ、もうすぐ定時だけど帰んなくて良いのか?待ってんだろ?」  「ああ、嫁さん今日は友達と出掛けてんだ。太一も定時で上がるだろ?飯付き合えよ。」  嫁さん…か………  幸せそうな顔も、一々照れながら嫁さんと口にするのも、マサは何もかもいつも通りだった。しかし、俺の中で形にならない違和感が喉元に燻る。  そんなに、苦しくないや…

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