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第28話
「んー、今日はやめとく。まだ仕事残ってんだ〜」
「まじ?珍しいじゃん。」
「マサとは違って俺は平々凡々ですから〜」
マサが結婚するまでは、こういった誘いを断った事がない。マサの隣に居れればそれで嬉しかったし、勝手に幸せな気持ちになれた。
今俺が幸せになれるのは、マサの隣じゃない、気がするんだ。
「それに、今夜は会いたいと思う人が、いるんだ……」
「太一に?マジ!?付き合ってんの?」
無性に会いたくなった。
あの優しさに浸りたくなった。
「や、俺の片思い?多分。まだ気持ちに気付いたばっかって言うか、まだあやふやなとこがあるって言うか…」
「あの太一がな〜。なんか娘を嫁にやる母親の気分だわ。」
そんなら仕方ない今度話聞かせてくれよ、と去るマサの背中を少しの間眺めた。
マサの左手に輝く指輪を見ても、俺の胸はチクリとも痛まなかった。それどころか、幸せそうに笑ったマサを見て、頭に浮かんだあの人に会いたい気持ちが色濃く広がる。
少しだけ残業して、頭の中で言い訳を並べよう。少ない勇気を振り絞って電話して、会いに行こう。気持ちをハッキリさせる為にも。
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