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第29話

 「太一くんお疲れ様。乗って。」  「わざわざ迎えに来てもらって、すみません。」  定時から一時間過ぎて、やっと俺の中で決心がついた。その決心が鈍らない内にと勢いで電話を掛けると、その向こうでは隆明さんが心底嬉しそうに声を弾ませていた。  「あの、ほんとに大丈夫でした?隆明さん、ゆっくり休みたかったですよね、」  「いやいや、この年になると寝すぎるのも疲れるんだよ。それに、気分転換に体動かしたいと思ってたから、太一くんは気にしないで。」  じゃあ、車出すね。って横目でチラ見されて、横から見てもかっこいいなぁなんて心臓が跳ね上がる。今夜も隆明さんのお家でご馳走になる。  ああ、さらりと自然に繋がれた右手が暑い。でも、その手は絡むことは無く、ただ重ねるだけのようで少し寂しい。  隆明さんの顔を一目見て確信した。隠しきれるはずがない。俺は見事“上書き”されてしまった。

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