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第54話

 『太一、友達になれよ。』  そう言った彼の笑顔が好きだった。  高校1年の冬、合コンで初めて知った女の子ではなく、男に強く抱き締められる事への快感。それを教えてくれたのは、中学からチャラいと有名(らしい)、矢吹雅人だった。  「はよ。太一、英語の課題やった?」  「雅人、おはよう。また課題やり忘れたのか?」  「ちょっと忙しくてな〜。ノート見せて!」  顔の前で両手を合わせ、おねがいっ、と乞う姿は、ちょっと顔が良いだけの男なのに、なんだか可愛らしくも思える。  俺は仕方ねぇなぁ、なんて渋るフリをして、その顔を観察する。男にしては長いまつ毛に色気のあるホクロ。あと、笑うと目がなくなるところまでもが俺の心を擽る。  「サンキュ!太一。助かったぜ。」  「なら良かった。」  俺は男に興味はなかったはずだ。中学から今まで付き合った相手もみんな可愛い女の子だし、それなりに色々してきたはず。  それなのに、合コンであのキスをしてから、雅人を見る度胸が高鳴って苦しい。  もう一度抱き締めて欲しい。腰や後頭部を支えられて、力の抜けるようなあのキスがしたい。

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