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第56話

 そんな俺の燻った思いは、就職してからも引き摺っていた。  「俺、そろそろ結婚しようかな〜」  「え…?」  「だってほら、マナとも付き合って2年半だし、そろそろ落ち着いても良い歳だろ?」  「……そっか、」  就職してすぐに、毎朝顔を合わせる受付の女の子と付き合う事になったと報告された。  またいつもの気まぐれで、数ヶ月したら飽きるんだろう。会社の受付嬢なんて、後々めんどくさいのに手を出したな。って思っていたのに、いつの間にか2年半。  久々に飲みに行こうぜと誘った目の前の雅人は、結婚式と入籍は丁度3年の記念日にすると計画を立てている。  婚姻届には予め記入しておいて、式の催しとして、お互いの父に証人の欄にその場で記入して貰えば、かなり盛り上がるんじゃないだろうか、なんて言っているその顔は、いつに無く楽しそうだ。  そっか、俺は告白するチャンスも与えられず、最後まで友人なんだ、と頭が真っ白になった。焦って、それは流石に急過ぎるんじゃないか?と口走ったが、雅人はもう両親にも会ってるし、逆にいい頃合だろ、サプライズにもなるし。と言った。  俺が好きだと認めたくなかったその笑顔が、俺の物じゃなくなる。  いや、始めから俺の物ではないけれど、心の中でそう思うくらい良いじゃないか。もうそれも、許されない……。

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