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第58話
「あ、マサくん?ごめんね急に。今日何時に帰ってくるかな〜って。お父さんが家に来て呑まないかって言ってるんだけど、マサくんもう呑んでるし、疲れてるよね?」
若い子特有のマシンガントーク。彼女の声は、いつも挨拶される時よりも数段高く、甘えているように聞こえる。そんな声を聞いただけで、俺の心にはドロっとした重いものが広がり、苦しくなる。
「あ、ごめんなさい、手が当たってしまって。俺、雅人と同級生の篠崎です。今雅人トイレに行ってて。伝言伝えておきましょうか?」
「あれ?ごめんなさい、私てっきりマサくんだとばかり…また後で掛け直すので、気にしないで下さい。」
それじゃあ、と切られた通話。画面を元に戻し、元の位置に携帯を置く。
マサくん…か。アイツそう呼ばれてるんだ。良いなぁ、俺がマサくんなんて呼んだら気持ち悪がられるのが目に浮かぶよ。
「マサ…くん……いやいや、気持ちわりぃだろ。ほんと、女に産まれればまだチャンスはあっただろうに……」
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