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第72話

 翌朝、一晩たっぷり寝てスッキリした胸に、ある覚悟を掲げた。  日付けが変わる頃に帰ってきたのだろう隆明さんはまだ隣で眠っている。こんな時でも胸がきゅっとして甘く疼いてしまうのが憎たらしい。  どうせ別れる事になるのなら、その事実がきちんとあった事だと心に残るよう、素直にはいと言っていればよかった。  隆明さんと俺、二人だけしか知らないこの関係は、夢や妄想の産物なのではないかと、苦しむ事になるだろう。  もっと、隆明さんの中に深く俺を刻み込めたら。他の、第三者に俺たちのこの関係を知っていて貰えたら。  そうしたら、きっと、心の片隅に思い出として置いておける気がするんだ。  「隆明さん、起きて。俺、覚悟出来ましたから。」  もう遅いかもしれないけれど、これが最後の夜になるかもしれないけれど。  俺が確かに隆明さんを愛し、お付き合いをしていたと言う事実を刻む為に。  「今夜、隆明さんのご実家に行きませんか?」  「太一くん、大丈夫なの?」  「俺は大丈夫です。」  寝起きで上手く理解出来ないのかキョトン、とした顔で問う隆明さんに、危うく“隆明さんこそ、俺なんかを実家に連れて行って大丈夫なの?”って嫌味ったらしく言ってしまいそうになった。  大丈夫。この胸にいつまでも渦巻いてる黒いものは、きっと今日が終わる頃には無くなっているはずだから。

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