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第83話

 「ふぅ、隆明さん、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。」  「それは良かった。」  夕食が終わった後、泊まって行けば良いのにと引き止める皆を何とか宥めて、隆明さんと2人で帰ってきた。  帰るなり隆明さんは寝室へ行き、早々に部屋着に着替えている。俺はそれをベッドに腰掛けて見ていた。  週に1回、仕事終わりにジムへ行っているだけあって、逞しく引き締まった背中。痛みを知らないサラサラな髪の毛。優しく、撫でてくれる大きな手。全部がすきだなぁ、と胸がきゅっとなる。  「そう言えば、金曜日はアキくんと買い物に行ってたんですね。俺、たまたま昨日2人を見てしまって。浮気かと勘違いしちゃいました、」  「へぇ…。」  「アキくんに手を引かれてたし、やっぱり俺の身体じゃ満足出来てないのかなぁ〜って悶々としてましたよ。」  滅多に飲まないワインを飲まされ、俺は後先考えずそんな事を呟いた。後ろにパタン、と身体を倒して、目を閉じて隆明さんの音を聞く。  脱いだアウターをハンガーに掛ける。Tシャツとジーンズ、あとソックスは洗面所のカゴに入れる。寝室へ戻る途中でキッキンに寄って、多分コップに水を入れている。  長い間一人暮らしだったから、こうして同じ空間に人が居る音を聞くのが、最近の俺のマイブーム。 「たかあきさーん、まだですかぁー」  明日の朝ごはんの準備か、それとも外出する前に残した食器の片付けか。未だキッチンで何かをしている隆明さんに大声で呼びかける。  音を聞いていたら、同じ空間に居るはずなのに、その温もりが隣にない事を不満に思ったのだ。

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