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第92話

 「隆明さんっ、あとどれくらいで着きますか?もう俺楽しみで仕方ないです!」  「ふふ、元気なのは良い事だけど、あまりはしゃぎすぎて車酔いしないでくれよ。」  「大丈夫です!事前に酔い止めの薬を飲みましたから。」  今日はクリスマスイヴの前日である12月23日。俺と隆明さんは今、2つ県を跨いだとこの有名な温泉旅館へ向かう道中。乗り物酔いしやすい俺を気遣って、隆明さんはこまめに休憩を入れてくれる。しかし、きちんと酔い止めを飲んだ俺は無敵状態で、今は温泉が楽しみで仕方がないのだ。  「へへ、俺、誰かとこうやって旅行するの、初めてなんですっ。楽しいですね、隆明さんっ」  「そうやって太一くんが隣で笑ってくれるだけで、俺はどこにいても楽しいよ。」  「もっ、もう、隆明さん最近言うセリフが甘すぎますっ!」  運転をしてくれているから、目は合わないけれど、隆明さんの目はきっととっても優しくて、暖かくて、甘い目をしているんだと思う。心の奥がきゅーんってなって、堪らず投げ出されていた隆明さんの左手を握った。  クリスマスだもん、少しだけ積極的になったって、良いよね。

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