116 / 132
第99話
「あ……マサ…、」
後ろから声を掛けられ、咄嗟に手を放して振り返った。声の主はクリスマスには遠出すると楽しそうに話をしていたマサだった。マサは丁度お土産屋から出てきたところで、マナちゃんはまだ中にいるんだろう、短気なマサの事だから、女の子の長い買い物に疲れて出てきたんだと思う。
「お前、彼女と旅行って、言ってなかったか…?」
「……え、っと…」
信じられない、と言う顔で迫ってくるマサに、俺は何も言葉が出なかった。バレてしまった、どうしよう、それだけが頭の中を占めていって、マサの目を見続ける事も苦しくなって、視線は地面に転がる石に移った。
「え、なに…お前ゲイだったわけ?そんなの聞いてねぇんだけど。」
「ごめ……、」
「謝れとは言ってねぇよ、ただ何で黙ってたんだって、」
「っごめん!隆明さん、行きましょう。」
「おいっ、太一!」
マサから浴びせられる言葉に耐えられなくなり、俺は隆明さんの手を掴んで旅館まで走った。変なことに巻き込まれてうんざりだろうに、隆明さんは何も言わずに着いてきてくれる。
本当に、何も言わずに……。
ともだちにシェアしよう!