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第109話

 「俺、マサからマナちゃんの惚気聞くの、嫌いじゃなかったよ。だからさ、マナちゃんのこと、大切にしてあげてよ。」  「っふ、太一らしいな。確かに太一さえ良ければって思ったけど、お前の幸せ奪いたくはないし、俺も案外今の生活気に入ってるし。」  「マサ、ちょっと丸くなったんじゃない?幸せ太りってやつでしょ。」  「いやぁ、嫁って凄いよな、飯がめちゃめちゃ美味いんだよ。次の日の弁当の為に多めに作ってるって言うけど、思わず完食しちまうからな。」  この想いは無かったことにはならないけど、俺たちの心の中に秘めておくべきものだ。あの時別の道を選んでいたら、なんて空想物語に浸ってないで、俺は自分が選んだ道を。マサもマサが選んだ道を。それぞれ歩んでいれば、きっといつかちゃんと思い出話になるから。  「つーか、今まで聞いてた惚気ってあの人の事か?そう思うと何か複雑な。」  「え?」  「あの人の前だと太一が乙女過ぎて、正直羨ましい。」  「なっ!乙女じゃないし!別に普通だし!」  確かにただのセフレだから〜とかうじうじ悩んでたところも見せてしまってはいるけど、女々しいと言われても乙女と言われる謂れはない!  でも、お陰でいつも通りの空気感に戻れた気がする。大事な友人を失う結果にならなくて、良かった。  「じゃ、俺戻るわ。もうマナ起きてるだろうし。」  「うん。」  「ま、精々お幸せにな。」  くしゃ、と乱暴に頭を撫でられた。公園を出ていくマサの背中からは、さっき見た寂しくて苦しそうな表情はどこにも感じられない。マサを好きだった事は一生心に留めておくつもりだったけど、ある意味良い結果になったのかもしれない。  俺もこれで、心置き無く隆明さんに好きだって言えるかな。

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