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第113話

 「へ?これ……」  「結婚して下さい、って言うのが俺達の間に当てはまるのかはわからないけど、指輪と、俺の家の鍵。」  「ほんとに…、プロポーズ…?」  「そうだよ。」  「……っ、」  ラッピングを綺麗に外していって、箱の中に入っていたのは、四角い箱が空いていて、中にはシンプルな指輪が嵌められていた。その傍にはいつも隆明さんが使っていたのと同じ家の鍵が添えられている。  今の日本じゃ俺達は結婚なんてできないけれど、こうやって将来を誓いあっても良いんだと、許されるんだと目の当たりにすると、涙が溢れて言葉なんて出てこない。  「返事、聞かせてくれる?」  「むりです……いま、言葉なんか、でなっ…、」  「泣き顔も魅力的だけど、笑顔が見たいな。」  「んんっ、隆明さんのせいです!こんな、俺っ、嬉しすぎてっ……」  「うん。」  後から後から溢れて止まらない涙を、隆明さんが何度も拭ってくれる。落ち着いたと思っても、隆明さんの顔を見ると、凄く幸せそうで、また胸に何かが込み上げて、それが涙になって出てきてしまう。  「それで、もし太一くんが良ければ、養子縁組なんかどうかなって思ってるんだけど。」  「んん?ようしえんぐみ……なんですか?」  「そっか、そこまでは知らないよね。俺達男同士のカップルは、普通の結婚は出来ないけれど、籍を移す事で、苗字も一緒になるし、事故や災害で何かがあった時に、きちんと家族として面会も出来るし、手続きも出来るんだよ。」  「うぅ、なんだか難しいお話、ですね……」  「そう難しく考えなくても良いよ、簡単に言うと、篠崎太一から紺野太一になって、正真正銘俺と家族になるって事だよ。」  「か、ぞく……」  真っ直ぐ見つめて言う隆明さん。俺にはまだ難しい言葉が流れ込んできて、何て言うべきなのか、何て返事をすれば良いのか悩んだ。でも、でも、きっとこれは、迷う理由なんてない。

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