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第137話

俺の隣から美優がバカっぽい話し方で体を寄せて話し掛けてくる。 「百合さん。初物好きでぇ~、ああいう地味で大人しめの子狙われるのよねぇ。それでねぇ~、貢がせるか同伴させてお店に来させるのよぉ~。ほんと商売上手で凄いんだからぁ~」 ミキの事、地味とか言ってるが今は会社用だからだ。 本当のミキの姿を見たら驚くだろうな。 今は前髪と眼鏡で目元を隠してるが、あの漆黒の青味掛かった目でジッと見詰められたらどんな男も女も虜になるだろう。 初物とか言ってるが、ミキも悔しいが女経験もそれなりにある、だから、ミキに限って万に一つの可能性も無いとは思うが百合って女の魅力で、やはり女の方が良いとか女に目覚めたりするんじゃ無いかと多少なりとも不安になる。 周りのガヤガヤした音と隣から甲高い声で話すのを聞きながら、そんな事を考えていた。 「ねぇ、初体験はどう?」 赤くなり「えっ、初体験って?」 「やあねぇ、初めてキャバクラ来た感想よぉ。んもう、そう言う所母性本能くすぐるわぁ」 「思ってたより薄暗いんですね。それに綺麗な人多いからびっくりしました」 「や~ん、嘘でも嬉しいわ。もう、こっちが気分良く飲んで貰わなきゃいけないのにぃ」 グイグイ胸を押し付けてくる。 「あのぉ、胸当たってます」 「可愛い。わざと当ててるのよ。これもサ-ビスの一環なんだから」 「そうなんですか?」 「ほら、周り見てみてよ」 言われて周りを改めて見ると、田口さんは腿に手を置かれ耳元で内緒話をしてるし、佐藤さんはしな垂れ掛かれている。 伊織さんをチラッと見ると腕を組んで短めのスカ-トを履いて自慢気に足を見せてる若いキャバ嬢が話掛けていた。 それが若い女の子に腕組まれてデレデレしてる様に見えた。 何デレデレしちゃってとムッとして、目の前のお酒を半分程一気に飲んだ。 「わっ、結構飲める口?じゃあ、今日は飲もう。私も飲んじゃう。乾杯」 グラスをコツンと合わせ、また、飲んだ。 隣のキャバ嬢の話を適当に聞き流しながらも話し、その間もミキの様子をチラチラと盗み見ていた。 ああ、飲み過ぎだ。 百合とか言うキャバ嬢に乗せられて飲まされてる。 初めてのキャバクラで解らず言われるがまま飲んでるんじゃないかと心配になる一方で、ミキにべたべたし胸を押しあてる百合にも、そのままでいるミキにもムカついていた。 キャバ嬢の言う事を間に受けて貢いだり店に甲斐甲斐しく通う男もいる、それは商売女のテクニックだ、そんな事も解らないミキでは無いと思いたい。 早く、こんな馬鹿げた鬱陶しい場所から出たい。 どうやってミキと店を出るか考え始めていた。 百合さんの上手いト-クに乗せられ、いつもより飲んでいる自覚はあった。 ヤバい飲み過ぎた。 飲み過ぎると眠くなる体質というのは解ってるのに、あの伊織さんの姿を見て飲まずにいられ無かった。 既に頭はフラフラし始めた。 「あらぁ、眠くなっちゃった?少し凭れて良いわよ。5分位したら起こしてあげるから」 「すみません。何か初めての所で緊張してたのかも。じゃあ、5分だけ」 ソファの背に凭れて目を瞑る。 「んもう、ほらぁ」 百合さんの肩に凭れさせられたが、眠くってそのままにしていた。 俺は常にミキの様子を盗み見ていた。 おいおい、フラフラし出してるぞと思った時、百合に凭れて目を閉じている様子に沸々と嫉妬と怒りを覚え田口に話し香坂を連れて店を出ようと思っていた時、田口から耳打ちしてきた。 「課長、香坂飲み過ぎたようですね。俺、香坂連れて帰りますよ」 考えた振りをして 「……いや、俺が同じ方向だしタクシ-で送る。少し疲れたし帰って休みたいからな。田口は久しぶりに羽目外る日なんだろ。ま、程々にして遊んで行け」 「そうですか。じゃあ、お願いしてもいいですか?香坂とは逆方向なんで、すみません」 「大丈夫だ。少し経ったら起こして店を出るから気にせず飲んでていい。香坂は任せろ、それより田口、佐藤を頼む。あの様子だとキャバクラに嵌るとマズイ」 「はい、解りました。佐藤は俺が様子みて時間になったら一緒に帰りますから」 何とか不自然にならないような形でミキと帰れそうだそれにしても田口はグットタイミングで話し掛けてくれた。 田口も遊んでるようで良く回りを見ている。 それに比べて、佐藤は女とイチャイチャしデレデレし、2人の世界に入っている。 佐藤こそお店に通いそうで心配だ。 そんな事よりミキだ。 少し冷静になろうとトイレに行き用を足して顔を洗って鏡を見た。 「良し、そろそろ連れて帰るか」 呟き、出るとトイレの前でキャバ嬢の美優が待っていた。 「ねぇ、これからアフター行かない?」 馴れ馴れしく腕を組んできた。 腕を離そうとすると今度は首に手を回してきて 「ねえ、いいでしょう?美優~、課長さんの事気に入っちゃったぁ~」 美優が顔を近づけてきた所で、ガタンッと音がした。 音がした方を見るとミキが目を見開き驚いた顔で見ていた。

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