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第139話

店の外に出て辺りをキョロキョロ見回すと30m先に、ミキが手を挙げてタクシーを捕まえてる所だった。 「香坂!」 ミキの所まで全速力で走るが俺の声に気付かないのか?タクシーに乗り込む。 「はぁはぁはぁ…」 タクシーが出る前に俺も乗り込めた。 「恵比寿まで」俺が言うと「いえ、運転手さん祐天寺で」 「恵比寿だ」 帰さないとギュッと手を握り締める。 「同じ方向ですが、どっちにしますか?」 運転手が困って聞く。 「恵比寿で」 俺がもう1度強く言うとミキも折れたらしく、黙っている顔をチラッと盗み見ると、そこには表情を無くした顔があった。 綺麗で整った顔が無表情でいると人形のようで凄く冷たく感じた。 タクシーの中では2人共無言で車内は静かだった。 俺のマンションに着き金を払って「降りるぞ」 ミキの腕を掴みタクシーから降ろし、マンションに入ってもエレベ-タ-に乗ってる時も、逃がさないと腕を掴んだまま無言で部屋に入った。 いつかもこんな事あったなと頭の片隅で考えていた。 ソファに脱いだ上着を掛け突っ立ているミキに 「なぜ、勝手に帰った?」 「………」 黙りか?これだけは治らないなと思いながら根気強く聞く事にし、ミキは無表情のままだった。 「言っておくが、ミキが誤解する様な事は何もしてない。あのキャバ嬢は単に常連になって欲しいからだろあんなのはキャバ嬢の常套句だ」 「………」 まだ、ダメか。 「俺はミキに顔向け出来ない事は何もしてない。ミキこそ初めてのキャバクラでベタベタされて、キャバ嬢の商売ト-クにその気になったんじゃ無いのか?」 俺が嫌味ったらしく言うと無表情の顔が崩れた。 「そんな!俺は……。課長こそ腕組まれてカッコいい.タイプとか言われて鼻の下伸ばしてたじゃないですか?」 「はあ!誰が鼻の下伸ばしてたんだよ。俺はあんな安っぽいキャバクラでバカっぽいキャバ嬢なんて相手するわけない!それを言うならミキこそ可愛い可愛いって言われて浮かれて酔って凭れ掛かってただろうが」 「それは、眠くなって……」 「ほら、ミキの方が俺なんかよりベタベタしてただろうが、それに無防備だ」 「ベタベタしてません。課長こそ、トイレの前で……キスしようとしてた」 もう、限界なのか俯いて涙声で話すミキの頭を引き寄せ抱きしめる。 「あれは誤解だ。ミキが酔っているようだから田口に言って俺が送る話になってた。恥ずかしい話だがミキがキャバ嬢に凭れてたりベタベタしてたから妬いて、少しク-ルダウンする為にトイレ行ったら、あのキャバ嬢が待ってて、アフタ-に誘われたが断ってた所だったんだ。キスはして無いしさせるわけ無いだろう。ミキがいるのに」 グスッグスン…グスン… 「だってぇ、俺も……あのキャバ嬢が課長にベタベタしてるの見て妬きもち妬いて……飲まずにいられなくって……ごめんなさい」 やっと、誤解が解けミキが妬きもち妬いていた事も嬉しく頭を撫でて話す。 「お互い妬きもち妬いてたんだな。もう、誤解も解けただろう?」 グスンッグスン… 「課長、ごめんなさい」 「もう、謝るな。俺も悪かったんだ。所で、まだ、課長呼び?今はプライベートだぞ」 「あっ、会社の流れでそれに興奮してたから気が付かなかった」 「ほら、いつも通り呼べ」 「…伊織さん、好き。モテ過ぎる伊織さんが悪い」 可愛い事を言うミキ。 「それを言うならミキの方だと思うがな。俺は苦労が絶えない。ミキ、愛してる」 何の事?って不思議顔をして、俺の愛してるって言葉にふわりと笑顔を見せる。 誤解が解けやっとミキに触れられると思ったら理性が飛んで、ミキの唇を奪うようなキスをした。

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