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第159話
「ミキ、おやすみ。明日、会社で」
「送ってくれて、ありがとうございます。気を付けておやすみなさい」
日曜の10時頃に、自分のマンションに送って貰った所だった。
伊織さんは「今日も泊まれよ」と言ってくれたけど、土曜の夕方からずっと普段通りの振舞いをするように努めていたが、少し疲れてしまったから、適当な理由をつけて帰る事にした。
部屋の中でやっと一息ついた。
「伊織さん、何にも言ってくれない。俺には関係ない事なのかなぁ?」
伊織さんは普段通りで、態度も変わらずイチャイチャするし抱いてもくれた。
でも、会社と自宅にまで迎えに来たワインレッドの車、余程親しい人なのだろう。
香水の相手が誰なのか?どんな関係か?なぜ会う必要があるのか?
胸元のネックレスを握り締め、何も言わない伊織さんに不安が募った。
その相手が誰か解ったのは週の半ばだった。
昼休憩間近の時間に専務が1課に顔を出した。
「成宮課長、昼飯でもどうかな?」
「はい、行きます」
俺達に声をを掛け、専務と一緒に昼食を食べに行った後ろ姿を見送る。
「田口さん、ここ最近、専務良く課長の事昼飯に誘うけど、何かあるんですかね?」
「さあ。昔の上司とかじゃねえの?」
「いや、俺は誰か転勤とか課長が出世すると見てるんですけど…香坂はどう思う?」
「え~と、解りません」
「転勤ならお前か?中東辺りにでも行って来いよ」
「田口さ~ん。酷く無いですか?可愛い後輩に対して、もっと可愛がって下さいよぉ」
「可愛いがるなら香坂だな。素直だからな」
「え~、俺も素直ですよぉ」
佐藤さんと田口さんの漫才のような会話を聞き笑っていた。
その専務が俺を悩ませてる根源だとは思っても居なかった。
次の日、その噂を耳にする事になった。
昼休憩を終え早めに会社に戻ると佐藤さんが
「田口さん、解りましたよ。専務が課長の所に来る理由が」
ニヤニヤして勿体ぶっている。
「何だよ。早く話せよ。どうせ下らねぇ話なんだろうけど」
「それがそうでも無いんですよ。さっき、事務の子達と昼飯食べに行ったんですが………。」
「また、女の噂話かよ」
「まあ、まあ、聞いて下さいよ。どうやら、課長、専務のお嬢さんとお見合いしてるらしいですよ」
「はあ!」田口さん。
「えっ」俺、2人で驚いていた。
「ね、ビッグニュースでしょう?」
「まあな。で、その話はどこまで信憑性あるんだ?課長、彼女いただろう。彼女居るのに、お見合いするような人には見えないけどな、な、香坂」
「……はい」
「課長、先週早く帰った時に専務のお嬢さんが迎えに来てたみたいで。それは、受付の子が取次ぎして課長に内線したから間違いないって。それに最近、専務良く課長の所来ますよね。専務も課長の事気に入ってて可愛がってる1人娘の婿にと思ってるんじゃ無いんですか?」
「んまあ、でも、それだけじゃあ、お見合いかどうか解らないだろ」
「それが、休みの日に2人歩いてるの見た人がいたみたいで、専務のお嬢さん、美人だからお似合いのカップルって言ってましたよぉ。残念がっても居ましたけど専務のお嬢さんなら諦めるしか無いって。課長もこれで出世間違いなしですね。俺、課長についていきます」
「ついて行くのは勝手だが、課長の方が切り捨てるかもな」はははは
「そんなぁ」
2人の話を笑いながら聞いて、何となく辻褄が合いショックで何にも考えられなかった。
その日、どうにかミスせず仕事終わらせたのは奇跡だった。
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