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第160話

部屋に入り1人になって、何から考えるべきか?それすら悩んでいた。 解った事はワインレッドの車の人は専務のお嬢さん、食事と休日に会ってたのも。 そしてお見合い……。 今まで専務がそれ程、1課に顔を出さなかったのに、頻繁に顔を出し伊織さんを昼食に誘うのもそういう事なんだろう。 それじゃ俺はどうすれば良いのか?伊織さんはどうするつもりなのか?なぜ、何も言わないのか? 「はあ、どうすれば良いか、解らない」 俺は別れたく無い……。 でも……伊織さんの幸せを考えると……。 俺には出来無い事……家庭を持ち美人の奥さんと可愛い子供。 それも専務のお嬢さんなら出世も間違い無い。 伊織さんの明るい未来を予想して俺は……何も無い自分。 それなら、責めて邪魔はしない様にしたい。 「……伊織さん…」 名前を呟き、涙がポロポロ流れた。 「別れたく無い」 別れると自分からは言えず悩む。 涙を拭いても拭いても溢れる。 「伊織さんのお見合いの結果が解るまでは、側に居ても良いかな?」 胸元のネックレスを握り締め、狡い考えとは解ってるけど………。 「だってぇ、側に居たいんだもん。離れられないよぉ」 声に出すと益々涙がポロポロ流れ止まらない。 自分勝手な考えとは解ってる。 今だけ今日だけ……。 明日には伊織さんの幸せを1番に考えるから…… 俺から離れられなくってごめん、伊織さん。 その日は泣き疲れ、伊織さんのおやすみLINEも見ないで寝てしまった。 朝、LINEで起こされた。 *♪おはよう。起きてるか?*♪ 慌ててLINEの返信をする。 *♪おはようございます。今、起きました*♪ *♪悪い。昨日、LINEの返事が無かったから気になって*♪ *♪すみません。寝ちゃったみたいで*♪ *♪具合悪かったのか?*♪ 優しい伊織さんにまた、涙が出てくる。 LINEで良かった。 *♪ただ、疲れて寝ちゃっただけです*♪ *♪そうか、何でも無いならいい。昨日、LINE入れたが今日、退社後、人と会う予定だから。じゃあ、会社で*♪ *♪解りました。また、後で*♪ LINEを終わらせた後、昨日のLINEを開くとそこには.退社後人と会うとLINEがあった。 専務のお嬢さんと? 頭を振って、今日から伊織さんの幸せを1番に考えるって決めたばかりだと止まらない涙を拭いて、洗面台で顔を洗い鏡の前で決意する様に呟く。 「解ってる。何が伊織さんの幸せかは……後は俺がどうするべきかだけだ」 少し晴れた目を温かいタオルで当て、マシになった目に眼鏡を掛けいつも下ろしてる前髪をいつもより下ろし目を隠して着替え、会社に出社した。 会社では既に噂は広がっていた。 少し休憩を入れようと給湯室の前を通り掛ると中では2~3人いて、成宮課長って言葉で伊織さんの話をしてると思った。 「成宮課長って、やっぱり専務のお嬢さんと結婚するのかなぁ」 「お見合いしたって事はそうなんでしょ?だって、専務のお嬢さんなら出世間違い無いでしょ」 「そうだよね。あの専務が気に入ってるらしいから」 「あ~あ、また1人良い男が居なくなっちゃう。専務のお嬢さんなら敵わないしね」 聞きたく無くても耳に入り、給湯室は諦め自動販売機で缶コ-ヒ-を買い、課に戻りたく無いと暫くその場にいた。 暫くしてトボトボ歩き課に戻るが、さっきの女の子達の話が頭の中でグルグル回っていた。 専務のお嬢さんには敵わない、諦めるしか無いっか……。 何も言わない伊織さんの前では俺もいつも通りに接していた。 それは俺もどうしたら良いか解らないから取り敢えずいつもと変わらない様にするしか無かった。 そして就業時間を過ぎて暫くすると机の上を片付け出して、伊織さんは俺達に挨拶して会社を出て行ってしまった。 「なあ、なあ。今日も課長、専務のお嬢さんと会うのかなぁ?」 今日は田口さんが外回りだから、俺に話を振られ困ってしまう。 「ん~、どうでしょうね」 「や、そうだろう。あんまり早く帰らない課長がいそいそと帰るんだから。デ-トじゃねぇ?」 早く話を終わりにさせたくって 「そうかも知れませんね。俺達には関係無いですから」 自分で言っておいて、そう、俺には関係無いから何も言わないんだと自分の言葉に傷付いた。 「関係あるよ。課長が専務のお嬢さんと結婚して出世したら、俺達も明るい未来が開けるかもしんねぇじゃん」 「……佐藤さん。課長を充てにしないで、自分で頑張っていきましょうね」 「………」 何も反応しない佐藤さんが気になって声を掛ける。 「どうかしました?」 「……香坂、段々と田口さんに似てきたんじゃねぇの」 「光栄です」 間髪入れずに返事をし、そんなバカな話をして、伊織さんの噂話も出掛けた事も気にしないように、悪いけど佐藤さんで憂さ晴らしした。

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