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第162話

伊織さんのLINEで話があると入っていた。 とうとう来たかと正直思った。 俺がこのまま何も知らない振りで、いつも通りにしていれば、少しでも長く側に居られるとそういう風に思っていたのも事実。 案外早く伊織さんは結論を出したみたいだ、もう側には居られないのかな? そんな自分の不安定な気持ちとは関係無く仕事はあり、あれから業者さんと打合せをして、そのまま直帰し伊織さんのマンションに行かずに一旦自宅に帰ってきた。 洗い流すようにシャワ-を浴び着替え、もう出るだけの状態だったけど、中々部屋から出れなかった。 伊織さんのマンションに直接行かなかったのも時間稼ぎをして、少しでも別れ話を先伸ばしにしたかったという逃げがあった。 暫くボ-としていたが時間も8時過ぎていて、もうタイムリミットだ、これ以上先伸ばしにしても結果は変わらない、全て受け入れると覚悟を決め立ち上がり部屋を出て駅に向かう。 伊織さんのマンションの部屋の前で暫く立ち尽くし、インタ-フォンを見詰めていた。 ここに来るのも今日が最後かも知れないと考え鳴らせずにいた。 ずっとこうしてる訳にもいかないと覚悟を決めインタ-フォンを鳴らす。 ♪ピンポン♪ピンポン… ミキか?思ったよりも遅い。 玄関のドアを開け、やはりミキが立っていた。 「思ったより遅かったな。ん、1度帰ったのか?」 「……はい。出先から直帰だったので」 「そうか。入れよ」 「はい、お邪魔します」 ミキを伴ってリビングのソファ-に行くが、ミキは直ぐにキッチンに行きコ-ヒ-を2つ入れて来る。 「ありがとう。ミキ、話があるから座れ」 「……はい」 もう、ここまで来たら全て受け入れると覚悟は出来た。 「ん~何から話すか。そうだな、まず、沙織の事だが……沙織って言うのは専務の娘の事だが……」 沙織?専務のお嬢さんの事?もう、名前呼びしてるんだ。 そっかぁ、決定的だ。 伊織さんは優しいから、俺には別れの言葉を言えないようで考えてる。 優しい人だから…ここは俺から言った方が伊織さんを困らせないんだろう。 「ミ…」 伊織さんが口を開くと同時に 「伊織さん……俺の事はいいです。俺にとって伊織さんの幸せが1番です。伊織さんには沢山の幸せを貰いました、それで充分です。どうか幸せになって下さい」 言いたい事も思ってる事も沢山あったけど、伊織さんの幸せを願ってる事だけは言えた。 もう、それで良いと立ち上がりリビングを出て行く。 何から話そうか話す事があり過ぎて考えていた時に、ミキから思ってもいない別れの言葉を告げられた。 なぜ、そうなるのか?どうして別れる話になるのか?とミキから告げられた別れ話に、ショックを受けて頭が真っ白になった。 ミキがリビングを出て行く姿を見てハッとし、このまま行かせてはいけないと我に返り直ぐに追い掛けた。 靴を履いて玄関ドアを開けようとする手に手を重ね背後から抱きしめ、耳元で今の気持ちを話す。 「行かせない。なぜ、別れ話になる。俺の話も聞かず、勝手に決めるな!」 「……もう、良いんです」 何もかも諦めたようなミキに腹が立つが、冷静になれと自分に言い聞かせる。 「何が良いのか?俺には話もさせないで、取り敢えずここじゃあ話にならない。リビングに行くぞ」 腕を掴みリビングに戻る。 ソファ-に座る俺の横で立ち尽くし、黙って俯くミキ。

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