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第163話

「先に言っておく。俺はお見合いも結婚もしない。これから先も」 「えっ、だってぇ、専務のお嬢さんとお見合いしたって。それに、金曜日も土曜日も専務のお嬢さんと会ってたんでしょ?同じ香水の匂いがした……見た人もいるって」 俯いた顔を上げた時、目に涙を溜めて泣かないように我慢してる姿が痛々しい。 ミキにこんな思いをさせていた事に、今度は自分の不甲斐なさに腹が立つ。 「まず、専務と俺の父親が学生時代からの友人で、小さい頃は家族ぐるみの付き合いなんだ。小さい頃はお互いの家を行き交う仲で、沙織は妹みたいな幼馴染みたいな感じだ。小学校の低学年位まではそんな感じだったが、お互いの父親が仕事も忙しくなり出世すると付き合いも疎遠になって行った。専務とは今の会社で、偶然に再会した」 「そうなんですか……もしかして、許嫁…ですか?」 ミキの思考回路にがっくりし、どうしてそうなるのか頭の中を見てみたい。 「はあ!今の話でなぜそうなるのか?不思議だが。まず、いい。話が進まない。沙織は許嫁でも何でも無い。俺は知らなかったが今回、噂になってるらしい見合いの件だが。そもそも専務が悪いんだ。沙織が付き合ってる相手がいて、紹介したいと言い出したらしいが、目に入れても可愛い1人娘だから、会えば付き合いを認めざる得ないと俺に先に相手を見て来てくれないかと言ってきたんだ。専務は沙織に俺が納得するような相手なら会ってもいいと往生際悪く時間稼ぎしたんだよ。それが発端だ」 立ち尽くしていたミキがヘナヘナとラグに座る。 「そんな事だったんですか?じゃあ、専務のお嬢さんの沙織さんに何度も会ったのも、そういう事だったんですか?なぜ、それならそうと俺に言ってくれれば……」 我慢出来ず安心したのかポロポロ泣きだした。 涙を指で拭いてやり 「泣くな。ミキには関係無い話だし、直ぐに終わる事だと思ったから言わなかった。こんな変な噂や誤解されて、別れ話になるとは思わなかった。沙織とは金曜日に食事がてら相手と会う日の打合せと久しぶりで昔話をしただけだ。土曜日は相手と3人で、ホテルのレストランで食事した。それで今週、専務に俺が感じた相手の人柄とその相手の会社状況なんかを報告した。沙織から専務が相手に会ってもいいと言われたと報告があって、俺が何て専務に言ったか聞きたかったんだろ?お礼の食事に誘われた。それが全部だ」 「……ごめんなさい」 涙をポロポロ流して謝るミキ。 「それと俺は今後誰とも結婚は有り得ない。俺は女はダメなんだ」 「えっ、嘘」 俺の告白に訳が解らないって顔をする。 「そうだなぁ。小学校の時から女は苦手だった。自分勝手でヒステリックで…原因は母親かもな。父親がまだ平社員の時は夫婦仲は良かった。さっきも言ったが専務の家とも家族ぐるみで仲良くしていた。それが父親が仕事もバリバリやる様になり、出世する度に夫婦仲が冷えていった、父親は仕事が面白い時で母親は寂しかったんだろう。家に帰って来た父親に構って欲しかったのか煩く言う様になり、浮気も疑う様になって喧嘩が絶えなかった。父親はその内そんな母親が嫌になり帰って来なくなり他で女を作り、そこで癒しを求めていたんだろう。父親の浮気を知り、錯乱状態から父親に当て付けるように、母親も若い男を家に入れ浮気三昧していた。俺は小学校から帰って、母親の喘ぎ声を聞いてた。そんな母親を凄く軽蔑していた」 「そんな小さいのに……」 小さい頃の俺を思って、またポロポロと涙を流す優しいミキ。 「その頃には、女はヒステリックで自分勝手だと人間は裏切る生き物だから、深く付き合うより割り切った付き合いをした方が良いと学んだ。中学の頃か、母親が妊娠した。もちろん浮気相手の子だ。それをキッカケに父親と母親が話合いお互い別の家庭を持ち仮面夫婦でいる事にしたらしい。父親も会社のメンツがあるし、それが一番良いとなったらしい。子供は父親の子として戸籍上は生まれるが遺産は渡さない事、父親の方も子供は作らないと双方協議し、今は年月も経ち必要な時はそれなりに連絡はしてるようだ」 「なんか、寂しいですね」 「ずっと喧嘩見てる方が辛かったから良かったよ。その頃も専務は気に掛けて、電話やら家に呼んでくれたりしたから恩がある。だから今回も断れなかった。俺が大した事無いと思っていたのが悪かったんだ」 「……伊織さん」

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