175 / 858
第175話
「疲れたな」
昨日、ミキの所に泊まり昼過ぎに当てもないドライブを楽しみ夕飯食べて、俺のマンションに着いた。
「伊織さん、運転お疲れ様です。もう、ゆっくりしましょう」
コ-ヒ-を持ってきてくれた、こう言う気遣いがミキの良い所だ。
そう言えばドライブ行く時、助手席に置いてあったドナルド&デイジ-のぬいぐるみを膝の上に乗せて話し掛けてるのが凄く可愛いかった。
「お前達、元気だった?これからドライブだよぉ。楽しみだね」
降りる時も
「また、ここで良い子にしてて」
頭を撫でて話し掛けていたなと思い出し笑いする。
ほんとに可愛い事をする。
「どうしたんですか?」
「いや、ミキが相変わらず可愛いなと思って」
「もう、そんな事ばっかり言ってぇ」
照れてる姿も可愛い。
そんなミキを見て、今まで忘れていた腕時計の事がフッと頭に浮かんだ。
丁度良い、聞いて見るか?
「そう言えば、昨日、ミキを部屋で待ってる間、アクセサリ-とか腕時計沢山あったが、アクセサリ-はミキの趣味でもあるから解るが、腕時計も収集してたのか?」
「アクセサリ-は買ったり自分で制作した物とか多いですけど、腕時計は貰い物ですよ」
貰い物?誰に?まさか。
「何だ、それってまさか付き合ってた奴らからのプレゼントか?何で、大切に取ってあるんだ。捨てろよ」
俺には別れた奴からのプレゼントを大切に取ってあるのが信じられなかった。
「確かに、お付き合いしてた人から貰いましたが、物には罪はありません」
「もしかして未練とかあるのか?そんなの取って置いて」
「未練なんてありません。大体、いつも俺の方が振られてるんですから」
「だったら、捨てれば良いだろ! 欲しけりゃ、いつでも俺が買ってやる!」
この時までは、ミキもまだ笑いながら話してたが、俺の言葉で表情を無くした。
「……何ですか、それ。そんな気持ちで貰ったって嬉しくも何とも無いです。俺は未練も何にも無いですけど、少なくっともプレゼント買う時に、俺の事考えて選んでくれた気持ちを大切にしたかったんです。別れたからって、嫌いになりたく無いし、何かの縁でお付き合いしたわけですから、それも大切な思い出です」
この時は怒りで、ミキの言ってる事が俺には理解出来無かった。
なぜ?別れた奴の事を大切に考えるのか?
「いいから、捨てろ!」
「……伊織さんに、そこまで言われる筋合いはありません。……考え方の違いですね。このまま話しても平行線です」
いつものミキなら、俺の言った事に反抗する事が無いそれが益々俺の感に触り怒りが湧く。
「ここまで言ってもか?だったら勝手にしろ!」
「解りました」
スタスタとリビングを出て行く。
いつもの俺なら直ぐに追い掛けて捕まえるが、今日は怒りの方が強く追いかけず、出て行くミキの後ろ姿を黙って見送った。
ミキが出て行ってから30分位経ち、俺の怒りも徐々に収まり冷静に考えられるようになってきた。
確かに俺の考えを押し付けていた。
ミキは未練は無い.物には罪が無いって言っていた。
確かに物は物でしか無いし、今のミキを見れば未練が無いのは一目瞭然だ。
家族を失ったミキが、人との絆や出会いを大切に考えるのも優しいミキだからだ。
俺は怒りで、自分勝手な嫉妬の所為で、ミキの考えや思いに耳を傾けてやる事もしなかった。
直ぐにミキに謝ろう。
今度はミキの考えを尊重しようと思い、部屋を出た。
車でミキのマンションに行き、チャイムを鳴らしても出て来ない。
「居ないのか?」
合鍵で中に入るが、俺達が出て行ったままの状態だった。
帰って来ると思い、暫く待って見るが戻らない。
それからミキの行きそうな所を探す。
おやじの店、近くの公園、沙織にも電話したがどこにも居なかった。
マンションに車を置いて、電車で祐一の店に向かう。
「もう、ここか真琴君の所だろう。ここに居なかったら、取り敢えず、祐一に会って真琴君に連絡して貰うか」
‘R’moneの重厚なドアを開ける。
店内は程々に賑わっていた。
ここは別世界の様だな、まだ、これから忙しくなるだろうな。
カウンタ-の目立たない隅に座り、ぐるりと店内を見回すが居ない。
「お、1人か珍しい。いつもので良いのか?」
小声で、祐一が話し掛けてきた。
「取り敢えず、水くれ」
黙って水を置く、それを一気飲みして
「……ミキ、来てないか?」
「いや、来てないが?」
「……喧嘩した……言い合いになって、出て行った。探してるが、見つからない」
「……ちょっと、待ってろ」
バイトのバ-テンに声を掛けて、バッグヤ-ドに消えた
真琴君に連絡してくれたらしい祐一が、直ぐに戻って来た。
「やはり、マコの所に居た。今、話を聞いてるらしい今日は泊まらせるって言ってる」
「……取り敢えず、行先が解れば安心だ。真琴君の所なら尚更だ」
「で、何で喧嘩したんだ?」
俺は事の経緯を掻い摘んで話した。
「そうか、普通なら別れた奴の物なんか見たく無いって捨てたり売りに行ったりする奴もいるが、ミキの性格でそんな事出来るような奴じゃないのは解るだろう?ミキは人との繋がりとか出会いを大切にするような奴だ。それは、物も一緒だ」
「その時は怒りと嫉妬で、冷静で居られなかった。良く考えれば解るのにな、今更だけどな」
「解ってるんなら、早く仲直りしろよ。ま、今日は無理だろうから、一杯飲むか?」
「ああ、いつものやつ頼む」
小声で暫くそんな話しをしていた所に、声を掛けられた。
「さっきから、マスタ-と話し込んで無いで、僕と飲まない?」
ミキと出会って以来、こういう誘いは無かった、久し振りの感覚だった。
声を掛けられた方に顔を向けると俺のタイプの奴がそこに居た。
祐一もそう思ったようで、眉を寄せていた。
少し勝気な大きな目と小さな口にぷっくりした唇が印象的で、背丈もそんなに高く無く細身の体に白い肌。
自分の魅せ方を知っていて、遊び相手には丁度良い感じだった。
1夜限りの相手か?誘われたのも久しぶりだなと思いながら、俺はしっかりと相手の顔を見て微笑み、口を開いた。
ともだちにシェアしよう!