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第186話

「おやじ、来てやったぞ」 「何だ、久しぶりだな」 「大将。また、来ちゃいました」 「ヨシ君、いらっしゃい。今日は良い魚が入ったから刺身が旨いよ」 何だ、ミキと俺との態度が全然違うじゃねぇか。 ったく、おやじもミキの虜にだな、目尻下げやがって。 「まだ、来てないみたいだな。金曜日だから、忙しいのかもな」 カウンタ-席に座り、おやじと少し話をして過ごす内に、沙織と矢島君が顔を出した。 「ヨシ君、待ったぁ?」 「少し前に来て、大将と話てました」 何だ、沙織の奴。 ミキには挨拶して俺には無しかよ、ったく。 こいつもミキの虜だな。 「成宮さん、ヨシ君。ご無沙汰です」 ん?ヨシ君?いつの間にとは思ったが、沙織の影響かと納得する。 4人揃った所でテ-ブル席に移動し、料理をお任せで注文してビ-ルで乾杯した。 料理が出てきて 「うわぁ、美味しそう」 「ここの本当に、新鮮で美味しいのよ」 「沙織さんに聞いて、1度来たいと思ってたんです」 3人の声を聞いて、おやじは嬉しそうにしていた。 料理を堪能し、世間話をしてから本題に入った。 大まかな成行きを聞かせて 「そんな訳で矢島君に、貰って欲しいんだ」 「売りに行って、誰かに大切に使って貰う事も考えたんですけど、知ってる人に大切に使って貰う方が良いかと思って、矢島さん良かったら、これ貰って下さい」 「ええ~、これって相当高い腕時計ですよ。良いんですか?僕なんかが貰って」 「うん。俺と伊織さんで矢島さんに似合いそうな感じの選んだんだけど……気に入らなかった?」 「いや、凄え嬉しいんですけど、分相応って言うか……」 「矢島君、社長だろ?1つ位、高い物を身に付けていても良いと思うぞ」 「大ちゃん、良いんじゃ無い。人助けだと思って貰いなよ」 「……はい。それじゃあ、有難く頂きます。そして、この時計に見合う人間になります」 「矢島君、そんなに堅く考えなくって良い」 「ありがとう。ヨシ君」 「こちらこそ、ありがとうございます。大切に使って下さい」 そう言って、おやじにも渋めの腕時計を渡しに行って暫く話込んでるミキを見て思い出していた。 月曜日にマンションに連れて帰りセックスし、シャワー浴びてベットに入り話をした。 始めは可愛いミキの小言だった。 「……伊織さん」 言いたい事は解ってるから、先制攻撃しておく。 「ミキの負担を考えて俺は挿れ無いって言ったんだ。ミキが挿れてって言ったんだぞ。確認もしてる」 「……言わされた感が、ハンパ無いんですけど…」 負担を考えたのは本当だが、後はミキ次第とも考えて少し誘導はしたかも知れんが……解ったのか? 「そんなの気の所為だろ。それに、この俺がミキ相手に1回で終わりにしてるんだ。会社で腰、辛そうにしてただろう。昨日の今日だ、手加減した。ミキの事を考えてるから」 そういう風に言えば、疑うことをしない素直なミキは 「ありがとう、伊織さん。いつも俺の事を1番に考えてくれているのに……ごめん」 本当に可愛い奴だ。 「ま、それよりだ。さっきの話だが、売りに行くのも良いが折角だから、今回の事で、世話になった祐一や真琴君にくれてやっても良いんじゃないか?あいつらなら、ミキの気持ちも解って大切に使ってくれるだろう」 「そうですね。身近な人に大切に使って貰った方が俺も良いです。だったら、矢島さんと大将にも渡したいです」 「あるんだったら、良いんじゃ無いか?」 「1つだけ、手元に置いておきたいのがあるんです。いつも会社に着けてる時計です」 どの男からのだ?そんなに大切な奴なのか?そう言えば、その時計だけは着けている。 余程、大事な時計なんだろう。 嫌で顔が引き攣る。 ダメだと言いたいが、もう喧嘩はしたく無い。 過去の相手だと……納得するしか無いのか?

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