216 / 858
第216話
シツコイ女だと思いながらも、顔には出さず。
「どうしたんですか?2次会行かないんですか?」
ワザと距離を置く様な話し方をする。
「あのぉ~、成宮課長。この後、2人で飲みに行きませんか~?」
はあ?何で行かなきゃなんね~んだよ、見て解んね~かな、帰る所なんだよと心で呟いていると、側で俺達を見ていた上野さんが、ミキに話してる声が聞こえた。
「香坂君。もしかして、電車で帰る事になるかもね」
「………。」
ミキは黙って聞いていた。
不安にさせまいと、少しはっきり言って置くかと口を開く。
「悪いが、明日も予定があるんで帰る所なんだ。それに、付き合ってる相手が居るんで2人っきりで行くのは、遠慮して置く」
「そんなぁ~。折角、お近付けに慣れたのにぃ~。少しだけ、付き合って下さいよぉ~。彼女いるのは知ってますけど、会社の人じゃないんでしょう?だったら、バレませんよぉ~」
ミキと上野さんの方をチラっと目だけで確認すると、黙って成り行きを見守っていたミキの頬が、ピクッと動いたのが解った。
「いや、バレるとかバレないの問題じゃ無く。付き合ってる相手に顔向け出来ない様な振る舞いは、したく無いんだ。会った時に、目も合わせられない様な事はな。それ位、大切な相手だから。そういう事だから、飲みたいならまだ、2次会に間に合うし、帰るなら他の人に送って貰ってくれ。それじゃ」
素っ気なく言い、お前の相手などしないと、それとなく言った。
「………。」
もう何も言ってこなかったから、そのまま高木から離れ
「申し訳ない。上野さん、行きましょう。香坂、帰るぞ」
「良いんですか?」
上野さんの問いに
「元々、帰る予定ですから」
そのまま、タクシ-を拾って帰る為に3人で乗り込む。
「課長、さっきは凄くカッコ良かったですよ。飲んでいても、きちんとお断りして彼女への誠意も伝わりました。課長の彼女は、幸せですね。こんなに思われて」
感心した様に上野さんが俺を褒める。
少し照れるが正直に話す。
「そうですか?日頃から思ってる事を言ったまでですが。それに、幸せを貰ってるのは私の方ですよ」
「あらあら、課長の惚気が聞けるなんてね。課長がそれ程言うなんて、どんな方なんですか?香坂君も気になるでしょう?」
ミキに振られ、少し照れてるのか?困ってるのか?頬が赤くなっていたが、上野さんには酔って赤くなってるとでも思ってるんだろうが、俺には解る。
「………そうですね」
「気になるわよね。で、どんな感じの方ですか?」
上野さんも少し酔ってるのか?いつもより饒舌になっている。
「ん…そうですねぇ。外見は綺麗なんですが内面がとても可愛い。それで、一緒にいると癒される。ずっと側にいて守って大切にしたいって思わせる子ですね」
俺の返答に、上野さんとミキは対照的な反応を示す。
「凄いですね。課長に、そこまで言わせる人なんて。綺麗なのに可愛いなんて、なかなか居ませんよ。良い方に出会いましたね。大切にして下さいね」
「はい」
上野さんは感心したように、それでいて興奮気味に話すが、ミキは俯き、頬も耳も赤くなり無言だったが、照れて顔を上げられないんだろう、そんな所も可愛い。
そんな話しをしていると、上野さんの降りる場所に近付き、上野さんにも今年の労いと感謝の言葉を述べ2人で来年も宜しくと挨拶し、上野さんはタクシ-から降りて行った。
ミキと2人になり、そっと手を繋ぎ運転手に
「このまま、恵比寿まで行ってくれ」
今日は帰すつもりが無いと、運転手を通してミキに遠回しに言うが、ミキは何も言わず頬を染めていた。
ともだちにシェアしよう!