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第235話

「腹がいっぱいになったら、眠くなったな。少しだけ仮眠するか」 「はい。ずっと運転で疲れたでしょ?言ってくれれば代わりますよ」 「まだ、大丈夫だ。その内頼むかもな」 運転席を後ろに倒し目を瞑ると、ミキも助手席を倒したのが気配で解ったが、そのままス-ッと眠りについた。 「ん~」 狭い場所で寝てたから、手を伸ばし背骨も伸びて気持ちいい。 時計を確認すると。1時間程寝てた様だ。 「ミキ、そろそろ出発するか?」 隣に寝てるとばかり思っていたミキの姿が無い。 「トイレか?」 出発前に俺も用を足す事にし、車を出てトイレに向かった。 トイレ内には何人か居たが、ミキは見当たらない。 取り敢えず、用を足しトイレを出て店を見てるかも知れないと、歩き館内に入ろうとした時、少し騒がしい声が聞こえた。 声のする方を見ると、ミキが3人のOLらしき女達にテラス席で囲まれていた。 「ったく、またか」 どうせ逆ナンされたんだろうと、見当を付けそちらに向かう。 近づいて行くと会話が聞こえてくる。 「ねぇ、ねぇ。何歳ですか?」 「モデル?芸能人?」 「彼女居るの?どこから来たの?」 矢継ぎ早に質問され困ってるのが解る。 「あの…俺、そろそろ戻らないと」 「まだ、いいでしょう?全然、話して無いしぃ」 「何も言わずに来ちゃったんで、一緒に来てる人が、心配するといけないんで……」 席を立とうとすると、両腕にそれぞれ手を掛けられ動けないようだ。 「じゃあ、連絡先教えて~」 「LINEでもいいから…ね。連絡するから皆んなで、飲みに行かない?」 「いいね。合コンしようよ」 スマホを出し、どんどん勝手に話を進められ、どうしたら良いか困惑気味の顔だ。 「あの~、困ります」 少し離れていた所から、ミキがどうするか見ていたがはっきり断らないミキにイライラしてくるが、女性に優しいのも困りものだなと半分諦め、ミキの性格を知っているから怒る事も出来ない。 まずは、助けてやるかっと声を掛ける。 「おい、ここに居たのか?出発するぞ」 俺の声を聞いて、振り向きホッとした顔をした。 相当、困ってたんだなと、その顔を見て思った。 「あっ、すみません。今、行きます」 俺に声を掛け、律儀に女達にも声を掛ける。 「すみません。もう、出ないといけないんでこれで、じゃあ皆さんはゆっくり楽しんで下さいね」 そう言って微笑み、その笑顔を見てボーっとしている隙に、今度こそ席を立ち俺の方に足早に向かって来た 「すみません」 俺の側に来たのを確認して、車へと無言で歩き出すと黙って着いて来る。 車に乗り込み2人っきりの車内で、暫く沈黙が続くと、ミキが恐る恐る俺の顔を除き見て 「伊織さん、探しました?すみません。眠気覚ましに、缶コ-ヒ-とお茶とガム買いに行ってました」 確かに、ミキの手には買い物した荷物があった。 「…………」 それでも、納得いかない俺は口を開かなかったというか、口を開いたらミキに愚痴を言うと思い口を閉ざした。 「えっと、怒ってます?」 「何に、対して?」 俺が怒ってると勘違いして、どうしようと困った顔をしてる。 「あの…買い物して直ぐに帰って来ようと思ってたんです……それが、店を出た所で彼女達に捕まって……すみません。探しましたよね」 「へえ~、捕まったら、誰とでも着いて行くのか?ふ~ん」 こんな言い方はマズイと思うが、言ってしまった言葉は取り消せ無い。 「……着いて行きません。あの人達、断っても強引で……」 「ほお~、強引なら連れて行かれても良いのか?そう言えば、ミキは強引な方が好きだもんな」 自分でも嫌味ったらしいと思う、マズイと頭をよぎるが口を開くと止まらない。 「そんな事無いです」 涙目になり始めた。 ヤバい.ヤバい.ヤバい。 これ以上は言ったらヤバい、追い詰めるなと警告が鳴るが。 「それに、俺には断ってる様には見えなかったが。ミキも実は連絡先交換したかったんじゃ無いのか?邪魔したか?」 自分でもすげぇ嫌味だと思う。 等々、ミキは涙を溜め泣く寸前だ。 「ひどっ、そんなに言わなくっても良いじゃ無いですか?」 ヒック…ヒック…グスンッグスン…グスン… 泣き出した。 ヤバッ、言い過ぎた。 慌てて、ミキの頭をぽんぽんして顔を覗き込み話す。 「悪い、言い過ぎた。泣くな、ミキに泣かれると、どうしたら良いか……悪かった」 グスンッグスン…グスン…… 俺の顔を伺う様に、涙目の上目遣いで必死に話す。 「ごめっ…伊織さんが悪いわけじゃ…俺が…伊織さん、もう、怒らないで」 何か、幼い健気な感じでいて、それで無自覚天然上目遣いをされたら、何でも許してしまいたくなる。 俺はミキの手の平で転がされてる様だ、これも惚れた弱みだ、仕方無いと頭を撫で 「怒ってるわけじゃ無いが…ミキは解って無い。俺は女達に逆ナンされた事より、何も言わずにいなくなった事だ。確かに、女達と一緒に居た事も気になり嫉妬もするが、何も言わず居なくなったら心配するだろうが」 ミキが1人で居たら、男でも女であっても軟派される事は想定内だ。 だから、1人では外に出したく無いのは本音だがそれは、言えない。 その代わり、起きた時に隣に居ない寂しさと、何も言わず居なくなって心配もした、そんな俺の心情が解って無いと説明する。 「ごめんなさい。心配掛けて」 グスンッグスン…グスングスン…… 「俺が寝てたから、起こさない様にしたんだろ?起きる前に、帰って来ようとしたんだろ?ミキの優しさは解ってるが、何度も言ってるだろ?俺に気を使うなって」 「ごめっ…グスングスン…」 「俺の気持ちも解ったならもういい。泣くな、俺はミキの笑ってる顔が好きなんだから」 そう言って、掠めるように軽くキスする。 びっくりして泣き止み 「い、伊織さん。ここ人が」 「ほらな、泣き止んだ」 くっくっくっくっ…… 慌てるミキが可愛く笑いが漏れる。 「んもう、伊織さんったら」 ミキも泣き笑いをし、さっきの険悪な雰囲気が無くなった。 こんな所で喧嘩なんかしてられない、まだ、楽しい旅行は始まったばかりだと京都に向かって走り出す。 「さて、出発するか」

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