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第243話

それから隣接する工場で見学する事にした。 「間近で見られるなんて、凄く勉強になります」 期待で、目をキラキラして話す。 カシャカシャ……シュッシュ…カシャカシャ… 西陣織の手織りの音が響く。 実際の工房では、縦の糸.横の糸と規則正しく、それでいて自由自在に操る職人技は素晴らしかった。 俺とミキは食い入る様にジッと、その職人技を見ていた。 カシャカシャ……シュッシュ…カシャカシャ… 時が止まった様な.そこだけ時代も遡ってる様な.糸の操る音だけが聞こえる。 暫く職人技を見て工房と織成舘を後にし、次の目的地に車を走らせた。 車内では、ミキが西陣織と職人技の素晴らしさに感銘を受け、熱く語っているのをずっと聞いていた。 次の目的地.北野天満宮に到着。 学問の神で有名な所為か学生が多い様に思った、もちろん観光客でも賑わっていた。 本堂でお参りし、広い敷地を「寒い.寒い」と言いながら肩寄せ合い散策する。 「初めて来たが、敷地が広いな~」 「ほんと。見て歩くには、良い散歩になりますね。伊織さんも初めてですか?」 「ああ。有名な所で、参拝者が多いからな。何となく、今まで行きそびれてた」 「そうなんですよね。金閣寺や清水寺とかは、修学旅行のコ-スに入ってるので行きますが、他の観光地は行こうと思わないと、なかなか行けないもんですよね。それに、こんなにお寺や神社があると、どれも魅力的で迷っちゃいますよね。それにしても、この時期だからか?学生が多いですね」 「ま、最後の追込みの時期だしな。後は、神頼みなんだろ。もう、形振り構わずやれる事は全部やるって言う、悪あがきなんじゃねぇ~の」 「伊織さん、口悪いですよ。受験生には死活問題なんですから。それを言うなら、藁にも縋るですよ」 「ま、どっちにしろ。自分の努力と実力しか無いな」 「そうですけど。頑張って欲しいですね。受かって、また、ここに御礼参りに来られれば良いですね」 「そうだな。それにしても、牛の像が多くないか?」 あっちこっちに、牛が飾られているのに不思議に思った。 「そう言えばそうですね。何か関係あるんですかね?ちょっと待って下さい」 直ぐに、スマホで北野天満宮を検索するミキ。 「えっと、言われは書いて無いですけど、狛犬.狐様じゃなく神牛として祭わられているみたいです。自分の体の悪い部分と牛の像の同じ部分を交互に撫でると回復すると、信じられてるらしいですよ」 「へえ、神牛とは珍しいな。天満宮と言えば、学問の神様としか知らなかったな」 「伊織さん。境内の奥に“牛舎”の1願成就のお牛さんって所があるみたいですよ。牛の像を撫でると、何でも1つだけ願いが叶うって書いてます。行って見ませんか?」 「他にも小さな神社があるから、散策しながら行くか」 「はい」 境内は広く、本堂の他にある小さな神社をお参りし、神牛が色んな場所で横たわっている像を撫でて回り、ミキの言っていた牛舎に辿り着いた。 メインの本堂の方とは違い奥の方にある所為か、お参りしてる人は疎らだった。 小さな紅い鳥居を潜り、小さな神社に神牛がやはり横たわっていた。 神牛を撫でお参りする。 1つだけ叶う願い事は、もちろんミキの事だ。 “これから先の人生をミキと歩んでいけます様に” ミキも同じく手を合わせ願い事をしていた。 参拝を済ませ鳥居を抜け 「随分、熱心に願い事してたな。何、お願いしたんだ?」 「内緒です。伊織さんが教えてくれたら、教えてあげますよ」 ふふふ……。 「俺か?もちろん、ミキの事だ」 「えっ、俺の事?」 「そうだ。これから先、ミキが他の奴に目移りしないようにってな」 軽いジョ-クを話すと、素直なミキには冗談は通じなかった、軽く拗ねられた。 「そんな事、絶対ありません。伊織さん、酷いです」 プイッて顔を背けられ、軽い冗談だったがマズイ怒ってるのか?慌てて顔を覗くと、泣きそうな顔をしてる 「冗談.冗談だ。そんな、泣きそうな顔するな」 引寄せ腕の中に抱きしめる。 「んもう、笑えない冗談は、よして」 俺の背中に手を回し、ギュッと強く抱き着く。 「ま、冗談だが、もし本当に他の奴に奪われても必ず奪い返す。ミキは俺の者だからな」 腕の中から顔を上げ、上目遣いの可愛い顔で 「そんな事は、永遠に来ないから安心して。俺は伊織さんの者です。そして、伊織さんは俺の者です。だから、さっきのお願い事は"これからもずっと伊織さんの側に居られますように”って、お願いしました」 ミキの耳元で「俺の願い事と一緒だ」と囁き、掠め取る様に素早く軽めのキスをした。 「嬉しい」 一緒の願い事に、頬を染め俺の胸に顔を埋めるミキが愛おしい。 牛神様のご利益があるように……頼むぞ。

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