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第258話

カンカン……カンカン… 薄暗い階段を降り"R”moneの重厚なドアを開ける。 「おう、来たな」 祐一がカウンタ-の中でグラスを拭きながら声を掛け、何も言わずに俺の好きなバ-ボンを差し出す。 目の前のカウンターに座り、バ-ボンに口をつけ 「久し振りだな。龍臣は、まだか?」 「相変わらずだ。忙しいんだろ?」 「そうか。たまには、会ってるのか?」 「会うって言うより時間が空いたからって、フラッと早い時間に来て、1時間も居ないで帰る。前に3人で会ってから2回位来たか」 「龍臣らしいな。俺は会うのは、あの日以来だ」 「お前は、ミキに夢中だからな」 「そう言えば、この間は迷惑掛けたな。後、クリスマスプレゼント.サンキューな」 「ま、仲直りしたならいい。クリスマスプレゼントって言うかマコに金渡しただけだ。ま、お陰でミキの麗しい姿を見られたから、金出した甲斐があった。写真であれだけ綺麗なら、実物はもっとだったんだろ?」 「お前なぁ~。真琴君に言うぞ、そんな事言って。まあな、実物は凄え~綺麗だった。レストランで俺も見た時に言葉を失う程見惚れた。周りの男も女も溜息と羨望の眼差しを向けていた程だ。お陰で自慢しながら、遠慮無くイチャイチャも出来たしな」 「はあ~、お前の口から惚気話が出るとはな。世も末だな」 「何の話だ?」 俺の隣にドサッと座り、偉そうな態度のこいつが龍臣だ。 「何、遅れて来て偉そうなんだよ。相変わらずだな」 「祐一、いつものな。俺が偉そうなのは、いつもの事だろ。久し振りだな、伊織」 「ああ、相変わらず忙しいのか?先生は元気か?」 カタッ。 龍臣の前にバ-ボンが置かれ、3人でグラスを合わせる 「忙しい事は忙しい。ま、仕事だ仕方無い。優希か?元気だ。弁護士資格も取れたし4月から俺の懇意にしてる弁護士事務所で、半年位勉強がてら務める予定だ」 「そうか、お前の為に頑張ったな」 「まあな。本当は、余り俺の仕事に関わらせたく無いんだが、結構、法に触れるスレスレの事もしてるし、前のしがらみも未だあるしな」 「それでも、お前の力に成りたいんだろ?支えるカミさんって感じだな」 「先生らしいな」 「俺としては、危険な目に遭わせたく無いし。だが、言うこと聞かない。俺達みたいな暴力団上がりの弁護は、誰もしたがらないからな。それなら自分がって言って、尊も手が離れたしって言って勝手に勉強始めた」 「好きにさせてやれよ。先生の想いも解ってるんだろ?」 「危険からは、龍臣が守ってやるんだろ?」 「ああ、あいつの気持ちには感謝してるし守っていく自信もある。ま、俺の事はいいから、さっき何の話してたんだ?盛り上がってたみたいだな」 お代わりのバ-ボンを作り、俺達の前に置きながら 「伊織の惚気話だ」 「はあ?伊織が?嘘だろ」 「何だよ。俺が恋人自慢したら悪いかよ」 ジロって2人を睨む。 「いや。昔の伊織では、考えられ無い」 「だろ.だろ。こいつミキにベタ惚れだからな。ミキってよしきって本当は名前なんだが、美しい樹木でミキって呼んでる」 「ミキか?可愛いニックネームだな」 「お前は、呼ぶな! 」 「ほらな」 目を見開いて驚く龍臣、そんな顔するのも珍しく俺と祐一は、大笑いした。 「前に祐一に少しだけ聞いてたが、どんな感じの人なんだ?」 それから俺は、今までのミキとの出会いなどミキの可愛さをこんこんと話した。 「凄え~、惚気」 「だろ」 呆れる2人の事は、放っとく。 「ああ、忘れてた。京都旅行に行って来たから土産な。王道で悪いが八ツ橋だ」 俺が土産を渡した事にも驚く2人。 受け取りながらも失礼な事を話す。 「あ、ありがとうな。伊織から土産なんてな」 「どうせ、ミキからだ。龍臣、こいつが俺達に気を使うタマかよ」 「気遣いの無い奴で悪かったな。お前らに誰が気を使うかよ。ミキに決まってんだろ。出来た奥さんだからな」 出掛ける前に「これ、祐さんと龍臣さんに持って行って下さい。マコに渡すと帰り荷物になっちゃうから」 1つは解るが、龍臣の分も有るとは思わず 「龍臣の分もか?」 「良かった。俺達で食べようと余分に買って来て置いて。後、大将と沙織さん達の所も有るんです」 そんな遣り取りがあって2つ渡された。 思いやりと心配りがミキらしく、抱きしめて思わず濃厚なキスをしてしまった。 どれだけ愛せばいいのか解らなくなる程愛しい。 出掛ける前のことを思い出し、ニタニタしてたらしい 「脂下がった顔してるぞ」 「スケベな事でも考えてるんだろ?」 2人に馬鹿にされたが気にならない。 「ミキが愛おしい過ぎてな」 正直に惚気ると呆れ返る2人。 俺もやられっぱなしではいられないと、反撃に出た。 龍臣の前で4人で行ったDLの話を持ち出し 「こいつ、ミキの前で俺に女を押し付けて行きやがって。危なくミキに誤解される所だった」 「悪い.悪い。あん時は、マコの妬きもちが可愛くってな」 片手で拝み笑ってやがる。 「それで、昼時にレストランで落ち合ったら、こいつら妙にイチャイチャしてやがるし、挙句、俺が女共を相手にしてたとか言いやがって」 「マコの誤解を解くのにな。俺がこういう商売してる所為か、余りヤキモチ妬かない様にしてるマコが、あの日はテンションも高く素直だったからな。宥めるのも可愛いかったんだ」 「へえ~。変わったのは、伊織だけかと思ったが祐一もそんな事するんだな。いつ聞いても、まあ、上手くいってる位しか言わないからな。ちょっと驚きだ」 「こいつは、ムッツリスケベなの」 「誰がだよ。このスケベ親父が」 「お前の愛情表現って解り難いんだよ。もっとストレ-トに言えよ。その方が真琴君も喜ぶぞ」 「俺達はこれで良いんだよ。マコも解ってるしミキに言われたから前よりは言ってるしな。それよりお前がドストレ-ト過ぎなんだって。よく恥ずかしく無いよ」 「俺のはミキ限定だ。ミキ意外はどうでもいい」 「まあ.まあ、喧嘩するな。ところで真琴君はチラッと見た事あるが、美樹君はいつ会わせてくれるんだ?」 「はあ~、誰がてめぇに見せるか。ミキを見て惚れられても困るしな」 無いとは思うが、万が一でもこいつと本気で奪い合う事になったら勝ち目が無い、それ位俺の中では一目置いてる存在だ。 「馬鹿な事言ってるな。俺には優希がいるし優希一筋だから安心しろ」 「解ってる。お前がベタ惚れなのもな。だが、過去のお前を知ってるからな。素行の悪さをな。油断は出来ない」 「確かに、先生と付き合う前のお前は酷かったからな。マコにも気をつける様に言っとくかな」 「おい.おい。そんな昔話よせよ。それを言うならお前らもだろうが」 昔話が始まり大笑いする。 なかなか会えなかったりするが、久し振りに3人で会って、昔話に花を咲かせ笑い合う悪友っていいなと感じた。 今は、それぞれに愛すべき守る存在が有り恋愛話が出来るとは、昔の俺達からは考えられ無かった。 久し振りに昔に戻った様だ。 店が混み始めのを見て「そろそろ帰るか?」 「そうだな。俺も時間だ」と忙しくなりそうな祐一に挨拶し、龍臣と“R”moneを出て「今度、会わせろよ。またな」と待っていた黒塗の高級車に乗り込む龍臣を見送り、俺は駅へと歩き出した。 ミキが待ってるオヤジの店へと。

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