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第275話

会社のエレべ-タ-を待っていると女性社員2人が、ソワソワしながら近寄り頬を染め 「成宮課長、これ宜しければ受け取って下さい」 「私のもどうぞ」 可愛くラッピングされた正方形の小さな箱を目の前に出された。 それを見て「ああ。そう言えば、今日はバレンタインか?」と思い出した。 「義理チョコでも気持ちは嬉しいが、恋人がいるので受け取れない。すまない」 断りを入れ、2人を置き去りにし、下りて来たエレベ-タ-に乗り込み部署に向かった。 「おはよう」 「「「おはようございます」」」 「おはようございます。成宮課長、これいつもお世話になってるお礼です。義理チョコですけど。お返し無しでお願いしますよ」 上野さんが義理チョコを強調し手渡された。 「上野さん、ありがとうございます。気を使わ無くとも良かったのに。すみません」 心良く受け取り、他の3人の机の上にも同じラッピングの箱があった。 始業前に仕事の準備をしていると5Fの事務の子が2人現れ、俺の机の前でやはり綺麗にラッピングされた箱を出してきた。 「成宮課長、これ受け取って下さい」 「私のも」 面倒だなと思いながらも 「気持ちは有り難いが、恋人居るので受け取れ無い。例え義理チョコでも、すまない」 先程と同じ事を話す。 「義理チョコ位、良いじゃ無いですか?」 その恋人が近くに居るのに受け取れるわけ無いだろうが、例え義理チョコでも本気チョコでも変な波風は立てたく無い。 「そうかも知れないが、やはり気持ち良いものでは無いだろうし。1人.2人に貰うと、他も貰わなきゃいけなくなる、それなら始めから断った方がいいと言う訳だ済まないな。ほら、始業時間になるぞ」 そう言って部署に戻って貰った。 「課長、凄いっすね。朝からモテモテですね」 「当たり前だろ、会社きってのイケメンだしな」 2人が囃し立てる中、ミキは黙って成り行きを見ていたようだが、ホッとした顔をしてたのは俺の気の所為では無いだろう。 「課長、感動しました。恋人への気遣いと大人の対応課長の彼女は、こんなに思われて幸せですね。それなのに私のチョコだけは、受け取って下さり、ありがとうございます」 「や、それ程でも無いですが、直ぐに不安がるので余計な心配はさせたく無いだけですよ。上野さんのは、義理チョコって解りますし」 「まあ.まあ。惚気られたわ」 ゴホンッ。 「さて、仕事始めるか?」 照れてる顔を見られない様に、パソコン画面を凝視する。 昼休憩から戻ると俺の机の上には、ラッピングされた箱が5個程乗っていた。 あれ程受け取れ無いと言ったのに拘らず……。 朝の件で、会社中に噂が広がり手渡し出来ないと思ったのか勝手に置いていきやがった。 どうするかな? 思案していると田口が苦笑して 「課長。一応、課長は受け取りませんよと言ったんですけどね。そう話すと、サッサと勝手に置いて行ったんです」 「そうか。困ったもんだな、捨てる訳にもいかないし誰が置いていったか解らないんじゃあ返す事も出来ないしな」 そこに上野さんが他の課の人達と笑いながら戻って来た。 「上野さん。悪いんですけど、これ皆さんで3時のおやつに食べて下さい」 机の上にあったチョコを手渡しする。 「あら.あら。宜しいんですか?じゃあ、私達で美味しく頂きますね。課長の彼女思いは徹底してますね」 ほほほほ……羨ましいと笑う。 上野さんの言葉に照れ臭くなり、直ぐに自席に着く。 ボ-ドを見ると佐藤とミキは午後から外出直帰になっていた。 バレンタインなんて面倒で仕方ない、好きでも無い奴から貰っても嬉しくも何とも無い。 ま、俺達は男同士だから、バレンタインは関係無いしな。 ミキはたくさんチョコ貰ったんだろうか? 断れない性格だ、受け取るに決まってるがそれも性格だ仕方無い、今日はおやすみLINEじゃ無く電話して探り入れるか?と、しょうもない事を考えていた。 あれから成る可く長い時間席を空けない様にし、やっと今日も終わると思ってると、帰り際にもチョコを持ってくる女性社員を何度か断り、変な気遣いをして、いつもより疲れが倍に感じた。 「モテるのも大変ですね」 田口の軽い嫌味に 「殆ど義理チョコだろ?田口こそ結構貰ってたみたいだな。彼女は大丈夫か?」 「それこそ、これは全て義理チョコだって解ってますよ。彼女の方も会社で配ってるだろうし」 「変な風習で困るな。貰ったら貰ったで返すべきか悩むし、返したら変な誤解され兼ねないしな。だったら貰わないのが1番だ」 苦笑して話すと田口も納得顔で話す。 「ごもっともです」 2人で苦笑した。 チョコの攻防は会社出るまで続いた。 バレンタインにチョコを渡す風習なんて日本だけだ、去年までアメリカにいた俺はすっかりそんな風習は忘れていた。 アメリカでは、男性が女性に花束を渡し恋人同士で過ごす時間だ。 暫く日本を離れていた俺には、今日のバレンタインの日は、凄く疲れた日となった。

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