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第301話
絵美ちゃんと待ち合わせたカフェに着いて、キョロキョロしていると「先輩、ここです」と笑顔で手を振っていた。
俺はてっきり、電話の様子から落ち込んで暗くなってると思って来たから、明るい絵美ちゃんに拍子抜けした。
「ごめんね。待った?」
絵美ちゃんの前の席に座り、店員さんにコ-ヒ-を頼み話し始めた。
「どうしたの?昨日、会った時は何も言って無かったのに、何かあったの?」
「いつも先輩に愚痴聞いて貰ってたから、先輩もいつも聞いてると嫌かなって思って、昨日は愚痴を言うのを止めたんです」
店員さんがコ-ヒ-を置いて去って行くのを確認して1口飲み
「じゃあ、特に何かあった訳じゃあないんだ?」
俺の質問に、急に暗い顔をして話し出した。
「実は……先輩とご飯食べに行った日も……絵美の悪口言ってるの聞いちゃって……ちょっと落ち込んでたんです。絵美が男の人と話してるだけで、陰口言われるんですよ。絵美、普通に話してるだけなのに~」
絵美ちゃんの会社での愚痴が始まり「うん.うん」と相槌をうつだけだった。
絵美ちゃんは、話してスッキリしたのか?急に態度が変わり「それで、先輩のハンカチ借りてたのを思い出して、そのハンカチ見てたら……先輩だけは絵美の話しを聞いてくれるって思って、先輩だけが頼りなんです」
心細そうに縋るような目で話す。
どうしよう。
伊織さんのマンションを出た時には、今日は、俺以外にも話しを聞いて貰う友達を作った方が良いと、はっきり話すつもりだった。
こんな絵美ちゃんの頼り無さそうな顔を見たら言い出せなくなったな、どうしよう。
そう思ってるうちに、どんどん絵美ちゃんは話しを進めてくる。
俺は言い出せず、黙って聞いていた。
ミキが出掛けてから、俺は以前から考えていた事を行動に移した。
目当ての人が来るのが見えて、小声で「ここだ」と手を振った。
近づいて来た沙織と矢島君に挨拶する。
「悪いな。変な事、頼んで」
「別に、伊織の為じゃないわよ。ヨシ君の為だし、それに伊織の話し聞いて嫌な女だと思って、ヨシ君がそんな女に振り回されてるのが我慢出来無いから、同じ女としてビシッと言ってやるわよ!」
「沙織さん、そんなに意気込まないでね。沙織さん、只でさえ、綺麗でキツく見られるんですから」
「や~ねぇ、大ちゃんったら。綺麗だなんて」
「本当に、綺麗で高値の花ですよ」
「んもう、大ちゃん」
「イチャイチャするのは、家で勝手にやってくれ。今は、そんな事より頼むぞ。沙織」
「大ちゃんとゆっくりしてたのに、電話掛けてきたの伊織でしょ?もう、勝手なんだから。解ったわよ。取り敢えず、店に入って様子を見ましょう」
矢島君が店内の様子を探って戻って来た。
「大丈夫です。店の奥の席で、ヨシ君は入口に背を向けてます」
「じゃあ、行くか」
3人で店内に入り、運良くミキ達のテ-ブルの近くに座る事が出来た。
コ-ヒ-を頼み様子を見る事にした。
辛うじて聞こえてくる話しの内容で、絵美ちゃんがミキしか頼りになる人がいない様な事を言っているのが解った。
「ねぇ、絵美ちゃんってあの子?雰囲気は可愛い系だけど、大した事無いじゃない。どうして?あんな子に男どもは騙されるのかしら」
「知らねぇ」
「小さくって可愛いじゃないですか?たぶん、凄い綺麗でも無いし丁度良い感じで、なんと言うか、ふわふわした女の子って感じで、話し掛け易いんだと思います」
「やだ~、大ちゃん。あんな子がタイプなの?」
「いや。一般論ですよ。俺は沙織さん一筋ですから」
「んもう、大ちゃんったら」
「いい加減にしろ! お前達の事はどうでも良い。家でやってくれ」
小声で顔を近づけヒソヒソ話す俺達。
そうこうしてるうちに絵美ちゃんが「この間、先輩と出掛けて凄く気分転換になったから、今日も少しだけ付き合って下さい」と言っていたと思う。
所々しか聞こえ無いが、話の端々から予想するとミキの事を誘ってるようだ。
「全く、図々しい女ね。恋人がいるって言ってるのに!」
沙織にも聞こえたらしく憤慨していた。
「ヨシ君。困ってるみたいだから、行ってくる」
「悪いな。頼む。本当は俺が行ければ良いんだが……」
「大丈夫よ。伊織の気持ちも解ってるし、伊織の気持ち代弁してくるわよ。私に任せて」
そう言って席を立つ。
そう、俺はミキが部屋から出たあと直ぐに沙織に電話して、ここまでの経緯を大まかに話し協力を頼んだ。
本当なら俺が行きたい所だが、男の恋人がいる事は、ミキにその覚悟が無いから大っぴらに出来ない。
そこで、沙織に恋人役を頼んだ。
「そんな女の毒牙にかかるなんて~。伊織の為なら、そんな面倒な事断ってるけど、ヨシ君の為なら……良いわよ」
「悪いな」
「……その代わり、私のお願いも聞いて貰うから」
「解った。何でも言ってくれ。俺と寝ること意外は、何でも言う事を聞く」
「げっ、気持ち悪い。私、そう言う事は大ちゃんで充分満足だから」
「俺だって、ミキ以外勃たねぇ~し」
「どうでも良いわ。伊織の下半身なんて興味無いわ」
「冗談は、さて置いて。頼む」
「解ったわ。大ちゃんと一緒に行くから」
沙織のお願い事なんて、バックか服でもお強請りされるんだろうな、それでも安いもんだ。
こうやって、俺は沙織の協力を得た。
こんな時、男同士だと言う事で何にも出来ない自分が情け無いと、ミキのテ-ブルに向かう沙織の後ろ姿を見て思った。
堂々と行ける沙織が羨ましくもあった。
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