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第302話
「ヨシ君!」
俺の側に居るはずの無い人が……びっくりした。
「沙織さん。どうして、ここに?」
俺の横の席に座り俺の方を見て、いつもの沙織さんとは別人の様に甘えた声で話す。
「だってぇ、折角の休日を過ごしてたのに~。恋人を置いて出掛けるんですもの、寂しくって来ちゃった」
絵美ちゃんから見えない様に片目を瞑りウインクする
恋人?ウインク?何が起こってるのか解らないけど、沙織さんに合わせる事にした。
「ごめん、直ぐに戻るつもりだったから」
俺達の会話を聞いて絵美ちゃんが口を挟む。
「先輩!。先輩の彼女?」
俺が口を開く前に、沙織さんが絵美ちゃんの方を向いて口を開いた。
「初めてまして、ヨシ君の彼女の神崎沙織です。ヨシ君からは色々聞いてるわ。大学の後輩なんですって」
「はい」
「ふ~ん。何か色々悩んでるみたいだけど、恋人いるって知ってて休日呼び出すのって、どうかと思うけど。休日に恋人同士過ごすって解らないのかしら?」
絵美ちゃんは俯きバツが悪そうに話す。
「すみません。先輩に恋人いるって聞いてました……でも……先輩しか話せる人が居なくって……」
「そう言う所から直さないと話せる友達なんて出来ないわよ。彼女いる人に気軽に相談したり出掛けたり、誘われれば誰にでも着いて行く事とか」
「……絵美、そんな事して無いもん。絵美から誘ったりして無いもん」
「自覚無いんだ?自分から誘ってなきゃ、良いってもんじゃないでしょ?大体、ヨシ君に相談とか言って、呼び出したり気分転換とか言って出掛けたりしてるじゃないの。ヨシ君の優しさに漬け込んで隙あらばって思ってたんじゃないの?」
痛い所を突き付けられたのか、絵美ちゃんの顔色が悪くなった。
「……絵美。先輩だけが頼りなんです」
「何それ。ヨシ君にあなたの会社の事なんて関係無いでしょ?話せる友達が居ないのは、日頃の自分の行いが悪いからでしょ?自分がどうして陰口叩かれるのか?人の所為にしないで自分で考えたら?」
「………」
「絵美ちゃん」
何にも言えない絵美ちゃんが可哀想になり、声を掛けると沙織さんに怒られた。
「ヨシ君もヨシ君よ。可愛い後輩なのは解るけど、大事な恋人を放っといて良いのかしら?優しいのも解るけど、時には突き放すのも優しさよ。ヨシ君がいつまても相談乗ってたら、この子いつまで経っても友達作らないわよ!」
「沙織さんの言う通りです。すみません」
「あなたも男にちょっとチヤホヤされたくらいで勘違いしないで、そんなホイホイ誰にでも着いて行ったら大切な人なんて出来ないわよ。
まず、あなたに必要なのは、話せる友達を作る事ね」
沙織さんの話しに思い当たる節があるのか、渋々返事をする絵美ちゃん。
「……解ってます」
「じゃあ。これからは、私のヨシ君を休日に呼び出したり、振り回すのは止めて頂戴だい。可愛い後輩として接するのは、百歩譲って仕方無いけど」
「先輩、すみませんでした。絵美、大学の時から先輩だけは、話しを聞いてくれてたから甘えてました。先輩の彼女さんが言うのは解ってるんですけど、回りと上手くいかなくって」
「あなたねぇ、今までの行いが行いなんだから、始めっから上手くいくわけ無いでしょ?根気強く話し掛けて、あなたの良い所を解って貰う努力しなきゃ。直ぐに、全員に解って貰おうなんて虫が良すぎるわよ。1人.2人と少しずつ増やしていくのよ。あなたが変わらなきゃ回りの人も変わらないのよ。取り敢えず、男より女友達よ。その後、本当に好きな人を作りなさい」
「……はい。頑張ってみます。先輩、今日はすみませんでした。絵美、帰ります。彼女さんもすみませんでした」
「絵美ちゃん、頑張って。大丈夫、絵美ちゃんの良い所を解ってくれる人はいるから」
絵美ちゃんに最後のエ-ルとフォロ-をする。
「はい」
絵美ちゃんは沙織さんに諭され、目から鱗状態で晴々した顔をしてカフェを出て行った。
もしかして、絵美ちゃんは話しを聞くとか陰口を言われるんじゃ無く、沙織さんみたいに正面から叱って欲しかったのかも知れない。
どちらにしろ後は、絵美ちゃんの頑張り次第だなと思った。
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