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第303話

カフェを出て行った絵美ちゃんを目で見送り 「ありがとうございます、沙織さん」 「どう致しまして。可愛いヨシ君の為だもん」 「所で、どうしてここが?」 「どうしてだと思う?」 「?」 「ミキ!」 伊織さんと矢嶋さんが俺達の席の側に居た。 「伊織さん! 矢嶋さんも?」 「すみません。ここに移動します」 店員さんに声を掛け、飲み物と一緒に移動して俺の前に伊織さん、沙織さんの前に矢嶋さんが座った。 「これで解った?伊織が泣いて頼んできたのよ。ヨシ君があの子を構ってばかりだから、寂しかったんでしょう」 「はっ! 誰が泣いて頼んだんだよ。そんな事あるわけ無いだろうが。ただ、ミキが絵美ちゃんに振り回されてるのが目についたからだ。ま、後は、一緒に過ごす休日に呼び出されるのも我慢出来なかったのも確かだが」 「ふ~ん。自分の恋人との休日を邪魔されるのは嫌な癖に、私達の休日を邪魔するのは良いのかしら?どう思う大ちゃん?」 「沙織さん、そんな事言わないであげて下さいよ。ヨシ君との時間を大切にしたい成宮さんの気持ちも解ってるんでしょ?だから、協力したんですよね?どうして成宮さんには素直になれないんですかね~」 「大ちゃん! 伊織なんかに素直になっても、何の意味も無いのよね~」 「悪かったな。意味の無い男で」 俺の所為で、何か言い合いになってオロオロし止めに入った。 「伊織さんも沙織さんも俺が優柔不断だったから……すみません」 コ-ヒ-を1口飲んでにっこり微笑み。 「や~ね~、ヨシ君の所為じゃないのよ。ヨシ君の優しさを利用したあの子が悪いのよ。ま、ビシッと言ったから、これで解ってくれると良いけど。取り敢えず、もう、休日に呼び出しは、無くなると思うわ」 「沙織、改めてありがとう。助かった」 伊織さんが神妙な面持ちで話すと、沙織さんが驚いた顔をして話す。 「大ちゃん。私、夢見てるのかしら。あの伊織が‘ありがとう’だなんて……悪い夢ね。気持ち悪い」 「悪かったな! 気持ち悪くって」 「沙織さん、夢じゃありません。現実です。気持ち悪いは、止しましょうね」 「ま、いいわ。私のお願いも聞いて貰う約束だし。何か、お腹空いたわ。4人でご飯食べに行きましょう」 沙織さんに言われて時計を見ると1時を回っていた。 「すみません。お昼過ぎちゃいましたね。俺、奢りますから、行きましょう」 「あら~、ヨシ君じゃなく伊織が奢ってくれるから大丈夫よ~。ん~、ゆっくりしたいから、前に一緒に行った事がある中華屋さんで良い?あそこなら個室あるし電話しておくから」 「解った。そこで良い」 「伊織さん、俺が奢りますから」 「沙織に頼んだのは俺だ。ミキは気にするな」 「じゃあ、行きましょう?ここも宜しくね~。大ちゃん、行きましょう」 「すみません、成宮さん。ご馳走になります」 手をヒラヒラ振ってカフェを出て行く沙織さんを慌てて追い掛ける矢嶋さん。 その後、どっちが払うか少し揉めたけど、結局伊織さんが払ってくれた。 それから矢嶋さんの車の後を着いて行き、沙織さんの知り合いの中華屋さんに向かった。 車の中で、伊織さんから沙織さんに頼んだ経緯を聞いて、俺の優柔不断さで伊織さんにも悪い事をしたなと思った。 「伊織さん、すみませんでした。俺がもっと絵美ちゃんに沙織さんみたいに、はっきり言えば良かったんです。すみませんでした」 「俺はミキの優しい所も好きだが、ま、優しい所がミキの良さでもあるが、今後はその優しさに付け入られ無い様に気を付けろよ」 「はい、すみません。言い訳じゃ無いんですが今日は伊織さんのマンション出てくる時には、休日に会うのはやめようと話すつもりでした……でも、絵美ちゃんの縋るような目で、俺しか頼る人がいないって言われて、言えなくなってたのも事実です。すみません」 「そう何度も謝るな。終わった事だ。本来なら沙織に頼むんじゃなく俺が言ってやりたかったが……こんな時に男同士の辛さが解る。何の力にも慣れ無かった」 「ううん、そんな事無いです。伊織さんは俺の事を考えて、沙織さんに頼んだの解ります。絵美ちゃんに男の恋人がいる事を知られない様にしてくれたんですよね。すみません。俺の為に…」 「謝るな。まだまだ日本は、男同士の恋愛には偏見があるのも現実だ。わざわざ世間に公表する必要も無いし、俺達2人が幸せならそれで良い」 運転しながら俺の頭をぽんぽんして慰めてくれる伊織さんに抱き着きたいのを我慢した。 伊織さんの優しさを感じた。

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