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第310話
「ミキ、おい。ミキ、そろそろ起きないか?」
「ん~…何時?」
「もう、昼過ぎたぞ。腹、空かないか?」
「ん~、空いたかも」
俺の胸に顔を埋めたまま、まだ、覚醒して無い頭で返事する。
「ほら、顔見せろ」
「ん~」
目を瞑り顔だけ上げるミキの唇に軽めのキスをする。
チュッ。
「おはよう」
キスで目を開け、朝から蕩けるように笑う。
「おはようございます」
チュッ。
お返しのおはようのキスをされ頬が緩み、朝からダラシ無い顔になるのが自分でも解る。
「キスで目覚めるなんて、なんとかの姫みたいだな?」
くっくっくっくっ……
「俺が姫なら伊織さんは……」
当然、王子様って言うだろうと思ったが……。
「ん~、小人?」
クスクスクス……
「誰が小人だ?そこは、王子様だろう?」
クスクスクスクス……
「だって~、王子様って感じじゃないんだもん。王様なら解るけど……白雪姫で、後は小人しかいないじゃ無いですか?」
「何だよ~。王子様みたいに若々しく無いって言いたいのか~?」
「違いますよ~。貫禄があるって言うか頼り甲斐があるって事ですよ」
「なら良い。じゃあ、今日は小人に徹するか。姫に献身的に仕える小人だな」
くっくっくっくっ……
「んもう、その話は終わり。何か作りますね。
待ってて下さい」
「ん、頼む。その間に矢嶋君に連絡して、沙織の気が変わって無いか確認しておく。それからだな、祐一に連絡するのは」
「そうですね。もしかして気が変わってるかも知れませんよね~。どうか、沙織さんの気が変わってます様に…」
自分の胸の前で手を合わせ神頼みしてるミキを見て、たぶん、無理だろうなと思いつつ、一縷の望みを掛け一応確認するつもりだ。
「じゃあ、伊織さん。矢嶋さんに連絡お願いします。ん~、起きよう」
上体を起こしベットから抜け出て寝室を出て行く。
俺はサイドボ-ドに置きっ放しにしていたスマホを手に取り、早速矢嶋君に連絡する。
電話を切り、キッチンで料理を作っているミキに声を掛ける。
「後、どのくらいだ?」
「ん、後、5分です。箸とスプーンお願いします」
箸とスプーンか、昨日の残りのシチュ-だな。
言われた通りに、箸とスプーンをテ-ブルにセットし椅子に座って待ってると
「出来ましたよ~。なんちゃってドリアです」
俺の目の前に、熱々のドリアが湯気を立て置かれた。
「熱いですから、フ−.フ−.して下さいね」
フ−.フ−.って言い方が可愛い、俺は子供か。
くっくっくっくっ……
「何?笑ってるんですか?はい、サラダ。食べましょう?」
「いただきます」
俺がドリア擬き(?)を食べるのをジッと見て、食べた感想を待ってるようだ。
「アツっ。ん、旨い」
「良かった~。シチュ-余ってたから、ご飯と混ぜて上にチ-ズ乗せて焼いたんです。だから、なんちゃってドリア?」
「ん~、余ったシチュ-で作ったとは思えないぞ。ん~旨い、旨い」
とても余ったシチュ-で作ったとは思えない程旨かった腹も空いてたが旨いからパクパク…と食べた。
本当に倹約家で良い奥さんだ。
ミキも食べ始め「美味しい~」と自分でも上手く出来たようだ。
「そう言えば。矢嶋さん、どうでした?」
「ああ、やはり気は変わって無いらしい。昨日、俺達と分かれた後、渋谷と表参道に行って買い物したらしい。矢嶋君の話では買い物もミキと真琴君の服とか選んで、それは.それは楽しそうだったらしい」
矢嶋君を振り回し買い物して、あ~でもない.こ~でもないとか楽しんでる様子が目に浮かぶ。
「はあ~、そうですか」
俺の話を聞いてガックリと肩を落とすミキに慰めての言葉を掛ける。
「もう、観念するしか無いな。後は、真琴君を引き込まないと沙織に集中攻撃されるぞ」
沙織がリアル人形遊びを断念する筈は無いな。
それも今回は2人分だ。
嬉しさ倍増で張り切ってるんだろうな、振り回される矢嶋君も大変だな。
「……解ってます。後は、マコに何とかお願いします」
「俺も祐一に上手く言ってくれる様に頼むから、そうガックリするな。すんなりとはいかないだろうが真琴君が渋々OKしたら、開き直るんだな。沙織の協力のお陰で何とかなったんだから」
「……それも解ってます」
「ほら、旨い飯を食べてるんだから、そんな顔するな」
「……はい。もう、なる様になれです」
開き直ると潔い所がミキの良い所だ。
何とか祐一に上手く真琴君に言って貰うしか無いなと、ミキが美味しそうに食べてる顔を見て思った。
ミキの為に……いや俺と祐一の為にか?
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