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第330話

ドアを開け挨拶をした。 「すみません。先生にお願いする事になって、他に頼めそうな人が見当たらなかったもんで」 「私なら今は暇だし、尊も小さい頃に良く熱出してたし」 「すいません、どうぞ」 玄関からリビングに招き入れ、コ-ヒ-を入れテ-ブルに置く。 「どうぞ、朝早くすみません」 「ありがとう。成宮とは高校の卒業式以来?あっ、大学の時にも龍臣と一緒に会ったかな?」 「はい、でも、随分久し振りです。先生もお変わりありませんね」 「あのね~、もう学校は関係無いんだから、先生は止してね」 「じゃあ、優希さんで良いですか?何だか、龍臣に叱られそうだが」 「先生よりまし。優希さんで良いから。名前呼ぶのに龍臣は関係無いでしょ?」 「はい。ところで、その龍臣は?」 「まだ、寝てるよ。昨日は成宮からの電話で張り切って一緒に成宮の恋人見に行くんだと言ってたけど、あの人がこんな早く起きられるわけ無いでしょ?」 「そうですね」 「そうだ、世間話は帰ってからで良いから、早速、見せて貰おうかな、成宮のコ・イ・ビ・ト」 「今、寝室で寝てます。こっちです」 寝室に案内し、寝ているミキを見せると一瞬目を見開き驚いた顔をし、直ぐに平静を装う顔に戻った。 「随分、綺麗な人だね。成宮はメンクイ?寝てると綺麗過ぎて人形みたいだ」 「俺の一目惚れ。外観は綺麗で近寄り難い雰囲気だが内面は健気で可愛いんだ。ミキを知れば離れられなくなる」 「凄い、惚気だ。ふ~ん高校の時の成宮知ってるだけに信じられ無いけどね」 「昔の話です。今はミキ一筋です」 「あっそう。人って変わるもんね~。ま、いい、 熱は?」 「さっき測って38度6分ありました。昨日は40度近くあったんですが、少し薬で下がりましたが……」 「熱は夕方にまた上がるから、油断大敵。たぶん、明日には熱下がると思うから。薬はコレね」 「はい、咳止めと解熱剤です。本当なら俺が会社休んで側に居ればいいんですが、今日は会議もあるし、いや、会議はどうでもいいんだが……実は、ミキとは会社も一緒で俺の部下なんです。ミキが病気の時に一緒に休むと変に勘ぐられて、ミキが後から何か言われても困りますから。俺は別に大っぴらにしても構わないんですが、まだミキにはその覚悟が出来ないんで。それで先生、いや優希さんにお願いしたんです。今日さえ乗り切れば、明日から土日は俺が看病出来ます」 「事情は良く解った。龍臣にも聞いてたし、寝室のドア開けて、リビングで六法全書でも読んでるから」 「すみません。昼休憩に連絡します」 「別に要らないよ。何かあったら、こっちから連絡するから、安心して」 「じゃあ、部屋の物は好きに使って下さい。冷蔵庫の中の物も何でも気にせず食べて下さい。鍵は玄関に置いておきます。呉々も宜しくお願いします」 「はい.はい。もう、出掛けるの?」 「昨日、定時に帰ったんで、早めに行って少し資料確認します」 「そう。じゃあ、行ってらしゃい」 「はい、呉々もお願いします」 ミキの頭をぽんぽんしリビングに行き、鞄を持ち名残惜しい気持ちと心配な気持ちで部屋を出た。 電車の中で今日も定時で帰ろうと考える。 やはり先生に頼んで良かった、心強い。 俺は、昨日龍臣に電話し事情を説明し、先生に来て貰うように頼んだ。 先生は龍臣の恋人、いや違うな結婚してるから奥さんか。 正式には、龍臣の親と養子縁組して龍臣とは兄弟と言う事になるが、親公認の実質的には夫婦だ。 龍臣も思い切った決断をした、それが出来たのは、龍臣の若い過ちで出来た子供‘尊君’の存在があったからだ 後継ぎがいることが大きかった。 龍臣もここまでくるのに苦労しただろう、もちろん先生もだ。 だが今は幸せそうだ。 龍臣.先生.尊君の家族か~、やはり家族は良いな。 俺も早くミキと本当の家族として暮らしたい。 会社に着くまで、そんな事を考えていた。

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