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第331話
ゴホッ.ゴホッ…咳き込んで、目が覚めた。
体が怠く、頭がボ-とし喉が乾く。
寝室のドアから「起きた?」と、軽やかな声が聞こえ、顔を見せた人に心当たりが無い。
辺りを見渡すと伊織さんの部屋だと解ったけど、どうしてこの人がいるんだろう?伊織さんの知り合い?どんな関係だろう?回らない頭で疑問だけが浮かぶ。
「えっと…ここは、伊織さんの部屋ですよね?ゴホッ.ゴホッ…」
側に近寄り、咳き込む俺の背中を撫でてくれた。
「大丈夫?ゆっくりで良いからね」
優しい雰囲気の凛とした綺麗な人だった。
「ゴホッ…ありがとうございます。あの…失礼ですけど……どなたですか?」
「あっ、ごめん.ごめん。自己紹介しなきゃね。私は海堂龍臣の恋人の海堂優希です。名字が一緒なのは戸籍一緒だから。一応、実質的には夫婦なんだけどね」
「龍臣さんの……。伊織さんからは、聞いてます。ゴホッ…すみません。えっと、伊織さんの高校の先生ですよね?」
「そう、龍臣と成宮.桐生の高校の時の担任」
「ゴホッゴホ…どうして?先生がここに?」
「その先生は止して。もう教師じゃ無いし、さっきも成宮にも話したけど……成宮も優希さんって呼ぶ事になったから美樹(よしき)君もそう呼んで」
「はい。優希さん?」
「素直ね。これじゃあ成宮も過保護になるわけだ。そうそう、ここにいる理由ね。昨日、成宮から龍臣に連絡あって、熱があるから今日だけ美樹君を看病して欲しいって頼まれたんだ。暇なのは私だけだしね」
「すみません。優希さんや龍臣さんまで迷惑掛けてゴホッ.ゴホッ…」
「全然迷惑だと思って無いから気にしないで。それより昼過ぎたけど、食欲は?何か食べないと薬飲めないからね」
「余り、食欲ありません」
「ん~、先に熱、測ろうか?」
「はい」
テキパキとして流石元先生って感じだ。
「ん~、37度9分か~。微妙だな。一応咳止めの薬だけ飲んで、夕方もう1度熱測って解熱剤はその時に考えよう。取り敢えず、何か口に入れないと……成宮がレトルトのおかゆ用意してあったけど?それともゼリーとか?」
「じゃあ、ゼリーで」
冷えたゼリーはとても美味しかった、喉も渇いてたからスポーツドリンクをゴクゴクと飲んだ。
「じゃあ、薬も飲んだしもう少し寝たら?」
「……ご迷惑じゃ無ければ、少しお話ししても良いですか?」
「可愛い~のね。ふふふ…良いよ」
ベットの側に椅子を持って来て、話し相手になってくれるようだ。
「何?話そうか」
「良ければ伊織さんの高校の時の話しが聞きたいですゴホッゴホッ…どんな感じでした?」
背中を撫でてゆっくり話し始めた。
「男子校って事は、知ってる?」
「はい、聞いてます」
「そっか~。成宮は顔も整ってたし行動力もあるから人気あったね。桐生は何考えるか解んないけど影があるって言うか隠れファンが居たね」
「やはり、モテたんですね。素敵な人ですから」
ふふふ……
「本当に可愛い子だね。成宮じゃ無くっても構いたくなる」
「ゴホッ.ゴホッ…すみません。龍臣さんは転校して来たんですよね。それからは、いつも3人でツルんでたって言ってましたけど」
「龍臣が転校して来た時は、私も学年が違う子達を受け持ってたけど。職員室でも龍臣の悪い噂は聞いてたからね。でも、学年違うとそんなに関わりが無いしと思ってたら、翌年に3人の担任になっちゃって。でも、話すと龍臣も他の子と全然変わん無いんだよね。それは成宮と桐生との出会いが良かったんだね。いつも3人で、馬鹿な事したりサボったりしてたよ」
「伊織さんも龍臣さんの事、見かけより話してみると凄い良い奴だって言ってまゴホッゴホ…」
「3人それぞれ自分に無いものを相手は持ってるし、それをきちんと認めてあげてるから上手くいったんだねそれに成宮も桐生も、あの龍臣に遠慮し無いで言いたい事言ってたし」
「素敵な関係ですね。ゴホッ.ゴホッ……ゴホッ」
「話し込んじゃったね。体に障るから、また今度話そう。今はゆっくり休んで。成宮、凄く心配してたから早く治そう」
背中を撫で布団を直してくれた。
「少し、ここにいるから安心して」
「はい。ゴホッ.ゴホッ…また、聞かせて下さいね」
「私で良ければ、いつでも」
ゆっくり目を閉じると、直ぐに睡魔が襲ってきた。
誰かが頭を撫でてくれたのが解ったが、もう意識が遠のいた。
「本当に可愛い子。成宮が大切にするのが解る」
頭を撫で、目を閉じても綺麗な顔を暫く見ていた。
綺麗な寝顔を見ていたら、いつの間にか寝てたらしい。
暫く経って、美樹君の声で起きた。
「伊織…さん……いお…りさん…」
熱が出て来たのか混濁する意識の中で、成宮の事を呼ぶ。
幼く切なくなる声を出している。
思わず手を握り「ここにいる。どこにも行かない」と、声に出していた。
ギュッと握り返す熱い手。
また、安心したのかス-っと眠りについたようだ。
「なんとも庇護欲を唆る子だ。成宮も大変だな」
夕方に熱が出始めた美樹君を甲斐甲斐しく看病した。
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