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第332話

ミキの事が気になり今日は、何だか仕事に身が入らない。 周りは、いつも通りの俺に見えて居ただろう。 朝早く会社に向かい仕事をしていると田口達も出社して来た所で、朝一で‘香坂から電話があった’と上手く誤魔化した。 看病も出来ず肝心な時に側に居れ無いのが本当に不甲斐ないが、これも社内恋愛と男同士の恋愛の辛いところだと頭では、解っている。 昼休憩も先生に電話しようか迷ったが、気になるが何からあったら連絡くれると言っていたから大丈夫だろうと仕事をしていた。 午後の会議が長引かない事を祈って会議に出たが、話の長い部長にイライラしながらやっと終わった話にホッとし、それからはサクサクと会議が終わり定時に帰れた。 2日続けて定時に帰れた。 田口も佐藤も午後から、外回りで直帰予定だったから丁度良かった。 電車に揺られながら、早くミキの元に帰りたいと焦る気持ちが強くなる。 ピンポン♪~…… ドアを開けてくれた先生が「早いお帰りで」とニヤニヤされたが無視し、ミキの様子を聞きながらリビングを通り抜け寝室に向かう。 2人で寝室に入り、ミキの寝顔を見てホッとした。 「先生、大丈夫でしたか?」 「こら、先生に戻ってるぞ」 「すいません。…優希さん」 「昼過ぎに熱測ったら37度9分だった。咳止めの薬飲んで少し話しをしてまた寝たよ。夕方から熱が出始めたから測ったら39度2分だった。お粥を少し食べさせて咳止めと解熱剤飲ませたからね」 「ありがとございます。助かりました。ちょっと着替えますから」 「解った。リビングにいるね」 寝室を出て行ったのを確認して、ミキの顔をもう1度見て熱が出ているのか顔が赤く辛そうだ。 首筋を触ると熱い。 頭を撫で「早く良くなれよ」と言葉を掛け、頭をぽんぽんしス-ツから部屋着に着替え、先生が待ってるリビングに向かった。 ソファ-でコ-ヒ-を飲んでる先生に改めて声を掛ける。 「急なお願いにありがとうございます。色々助かりました」 俺もソファ-に座りやっと落ち着いた。 「成宮、凄く良い子だね。素直で庇護欲が唆る」 「解りますか?俺には勿体無いって解ってますよ。でも、俺はミキ無しでは居られない」 「高校生の時の成宮なら勿体無いと思うけど、龍臣からも色々聞いてるしね。今の成宮なら大丈夫なんだろ?」 「昔の話しされたら何も言えないが、ミキと出会って俺は変わりました。ミキが変えてくれたんです」 「そう、良い子に出会ったね。大切にするんだよ。部屋も綺麗にしてるし冷蔵庫の中も整理されてたし、冷凍庫にはたくさん成宮の為に作ったものが小分けにしてあった。アレを見ただけで成宮も大切にされてるのが解る」 「家庭的なんです。俺はいつも癒される。俺がミキに出来る事は、ずっと側にいて離れない事だけです」 「それで充分じゃないのか?さっきも混濁する意識の中‘伊織さん.伊織さん’って、成宮の名前呼んでたぞ。それ程、成宮が1番あの子の中で存在が大きいんだ。心細い時に程、1番側に居て欲しい人の事が出る」 「そう言って貰えると嬉しいです。先生こそ龍臣とは上手くいってるみたいですね」 「ま、龍臣はある意味人を惹きつけるからね。夜のお姉さん方とかそっち系の人とかね。お店を何軒も持ってるから仕方無いけどね。誘惑が多いから、大変だよ」 「浮気したりするんですか?俺達には‘優希一筋’って、惚気てましたけどね」 誘惑が多くっても龍臣なら、どうにか躱(かわ)すんだろうが一応聞いてみる。 「どうだろうね。外に出たら私には見えないからね。ま、信じるしか無いけどね。浮気したら直ぐに離婚だね。ま、予防線は張ってあるけど」 そう言って左手を見せた。 その薬指には、結婚指輪が光っていた。 凄く眩しく感じたのと羨ましかった。 この指輪1つで、相手を雁字搦(がんじがら)みに出来る事が。 「俺には、羨ましいです」 「あっても関係無く誘惑してくるけど、一応あるのと無いのとでは違ってくるしね。ま、龍臣が浮気しないように成宮も見張って欲しいね」 「解りました。何からあったら、直ぐに連絡します」 「頼むね」 お互い顔を見合わせて笑った。 龍臣には、やはり先生が1番似合う。 あの猛獣の手綱を上手く操れるのは、この人しか居ない。 帰りはタクシーを呼ぶと話すと 「車呼ぶからいい。あの黒塗りの車乗るの嫌なんだよね~、目立つし。でも、龍臣が煩くって。今日もタクシーで行くって言ってんのに車出して。朝早いから運転手さんに悪くって」 そう言いながらも、龍臣に大切にされてるのが解るんだろう憎まれ口を言いながら、顔は嬉しそうだ。 「ま、龍臣がそれで安心するなら、そうして下さいよ」 「ふふふ…まあね。じゃあ、帰るからね。明日には、たぶん熱も下がると思うけど。ま、熱が出す事でウィルスを殺してるんだから、後は、睡眠と小まめなの水分補給だね。お大事に」 「ありがとうございます。今度、お礼しますから」 「お礼なんて良いから。成宮にも久し振りに会えたし綺麗な恋人も見れたしね。じゃあ、またね」 そう言って部屋を出て行った。 寝室に戻り、辛そうにしているミキの寝顔を見て ‘うわ言で伊織さん.伊織さんって言ってた。成宮の存在があの子の中では大きいんだ’と、先生が言ってた事がどんなに嬉しかったか。 ミキは俺にとっては、掛け替えのない存在だ。 こうやってお互いを信頼し、安心出来る場所になっていくんだろう。 また、ふわりと花が咲く様な笑顔が見たい。 「早く良くなれ」と、冷えピタの上から唇を落とした

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