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第333話
誰かに抱きしめられていた。
暖かく安らげる腕の中。
「……ん~」
起きなきゃいけないのに、もう少しだけとその温もりにしがみ付く。
「朝から可愛いが怠くないか?熱は?」
上から声がして見上げると、心配そうな顔の伊織さんと目があった。
「伊織さん?どうして?」
なぜ伊織さんがいるのだろう?病院行って怠くなって自分のベットで寝てたはず。
「覚えて無いのか?一昨日、熱出して、1人にして置けないから俺の部屋に連れて来た。先生いや優希さんが次の日に来てくれたんだが、それも覚えて無いか?」
はっきりしない頭で、綺麗な人が居て伊織さんの高校生の時の話しを聞かせてくれた事をボヤ~と思い出す。
「そう言えば、知らない人が居ました。伊織さんの高校生の時の話しをしてくれたような気がしますが、内容が定かではありません」
先生が俺の高校時代の話しをしたと聞きドキッとした
変な事話して無いだろうな?
余り素行が良く無い事ばかりで、ミキには余り聞いて欲しく無い。
「そうか、あの人は龍臣の恋人って言うか、籍いれてるから夫婦だな」
「あの人が龍臣さんの?綺麗で凛とした人ですね」
「そこは覚えてるのか?まあ、良い。熱を先に計らせろ」
ピッピッピピ……
37度3分か。
熱は下がっていてホッとしたが、まだ油断はできないな。
「37度3分だ。熱は下がったが、今日はゆっくりしてろ。体の方はどうだ?怠く無いか?」
「ん~、だいぶ楽になりましたけど…」
「けど、何だ?」
「……シャワ-浴びたいです」
「解った。連れて行く、シャワー浴びてる間にお粥だけ作っておくって言ってもレトルトだが」
「ありがとうございます」
「よし、連れて行くから捕まれ」
「はい、宜しくお願いします」
首に手を回しギュっと抱きつく体をお姫様抱きで、浴室に連れて行った。
「シャワーだけにしろよ。下着と部屋着を用意しておく。着替えたら呼べ」
「1人で歩けますから」
「俺がしたいんだ。今日はミキを構い倒すから、そのつもりでな」
「ふふふ……じゃあ、お言葉に甘えます」
「そうしろ」
ミキを置いて浴室から出てレトルトのお粥を用意し、下着と部屋着を持って置いておく。
自分の食パンを焼きソファで待ってると、浴室から「伊織さ~ん」と声がした。
お姫様抱きでソファまで連れて来て、そぉっと下ろしドライヤ-で髪を乾かす。
ゴォ-.ゴォ-.ゴォ-……
「気持ち良かったぁ~。さっぱりしました」
「そうだろうな。寝汗すごかったし、上半身だけはタオルで拭いてやったが。振り返すといけないから、温かくしてろよ」
「はい」
手を動かし、ふわふわになっていくミキの髪の触り心地も良くなってきた。
「よし。レトルトのお粥だが、少しでも食べろよ。それから薬だ、いいな」
「ん~、余り食欲無いけど…少しだけ」
レトルトのお粥を用意しフ-.フ-し、口に持っていくと
「伊織さん、重病人じゃないんだから、1人で食べられますよ」
「俺がしたいんだ、黙ってやらせろ」
ミキがもう良いって言うまで食べさせ、薬を飲ませる
「咳き止めの薬だけでいいな。はい、あ~ん」
「薬ぐらい飲めますって」
「いいから」
仕方ないって顔で口を開け薬を放り込み、水も飲ませ熱を計る。
ピッピッピッ……
「ん、だいぶ下がったな。36度8分だ」
「もう、大丈夫です」
「いや、油断は禁物。今日は何もするなよ。何でも俺に言え」
「はい」
ラグに座らせブランケットを掛け、背後から抱きしめる。
ミキにはスポーツドリンク、俺はコ-ヒ-と食パンを自分用に簡単な昼食を咀嚼する。
「今日は、DVDでも見て過ごすか?」
「はい」
古い映画を見始め1時間位経った頃だろうか、ミキがウトウトし始めた。
揺れる頭を俺の胸に押し付けてやり体を包むように抱きしめ、俺はそのままDVDを見ていた。
咳も殆どしなくなり熱も下がったが、まだ、体力が戻って無いんだろう、飲み物だけしか口にしていなかった体は、少し痩せていたような気がした。
ミキが起きるまで、そぉっとしておいた。
俺は抱きしめたままDVDも見終わりテレビを見ていた。
「…ん」
「起きたか?」
「寝てた?」
「DVDを見ていたがウトウトし始めたから、そぉっとしておいた」
「すみません」
「まだ、本調子じゃないんだ」
ブランケットを退かすミキに
「どうした?暑いか?」
「ううん。ちょっとトイレ」
「今、連れて行く」
「流石にトイレぐらいは、行けますって」
「だめだ。連れて行く」
恥ずかしいようだが、俺が頑として言うことを聞かないと渋々諦めトイレまで連れて行き、ドアの所で待ってまたリビングに連れて行く。
ミキが雑誌を見たいと言えば取りに行き、トイレに行きたいと言えば連れて行き、飲み物も取りに行く。
殆ど定位置から動かずにいるミキと構い倒す俺。
そのうちミキも甘え始め「伊織さん、寝てばっかりだったから、腰痛いから摩って~」「寒いからギュっとして~」とか可愛い甘えに、俺はデレデレのだらし無い顔で何でも言う事を聞いていた。
病気もたまには良いかも知れないと、ミキの可愛い甘え方に不謹慎な考えが頭を過ぎった。
愛する人からの甘えと構える嬉しさに静なるラブラブな日となった。
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